2021-09-07

【経団連会長・十倉雅和】のサステナブルな資本主義・市場経済を!

日本経済団体連合会会長 十倉 雅和



後事を託した中西氏とは思いを共有…

 好きな言葉は『義』──。十倉氏は今年6月1日、経団連会長に就任したのだが、就任時の記者会見で、好きな言葉は? 
と聞かれて、「思わず出てしまった言葉ですけどね」と言う。

 思わず口に出てきたというのには、十倉氏にも熱い思い出がある。

 十倉氏は住友化学専務時代(2009年―2011年)、液晶や有機ELパネル素材をつくる情報電子化学部門を担当。この時、韓国での合弁会社、『東友ファインケム』の会長に就任。韓国側の合弁相手とは徹底した対話路線で信頼関係を築き、高収益会社に育て上げた。

『義』という1文字は、“正義”や“大義”、そして“信義”といった言葉に通じ、自分の生き方の基本軸になると同時に、相手との信義・信頼関係を構築する素地にもなる。

 漢字圏の中国はもとより、今はハングル文化の韓国でも十分に、その真意が「伝わって安心しました」と言う。

 2011年4月社長に就任、19年4月会長就任という足取り。この間、2015年から19年まで経団連副会長を務め、19年4月から経団連審議会副議長に就任していた。

 その十倉氏に、闘病中の経団連会長・中西宏明氏から、「わたしの後任を」と要請が来たのは今年の4月15日のこと。

 悪性リンパ腫で昨年5月から入院していた中西氏はWEB会議などで会長の仕事を続けていたが、この時点で、退任を決め、十倉氏に後任を託したのである。

 中西氏の意を受けて、経団連事務総長の久保田政一氏(経団連副会長)が十倉氏を訪ね、その意向を伝えたという経緯。

 突然の要請に、十倉氏もびっくりさせられた。帰宅して、夫人の猛反対を受けたという。

 しかし、病床にある中西氏が自分を指名したことを受け、知人や関係者にも意見を聞いて熟慮、就任を引き受けた。

 中西氏は薬石の効なく、6月27日に逝去。享年75。

「中西さんの体調が回復して、飯食おうよというお誘いを受けまして、そのとき一言でも二言でも中西さんの考えを聞きたいなと思っていたんですけれど、急転直下、体調がまた悪化して逝去されましたので、それがかなわなくなりまして……」

 十倉氏が経団連会長に就任したのは6月1日。療養中の中西氏はそれから4週間弱後の6月27日に亡くなった。

「僕が経団連会長になってからは、中西さんとは一言も会話をしていないんです。話せていないんです。非常に残念です」と十倉氏は悔やむ。

 十倉氏も無念の心境。会長就任を内諾した段階で、中西氏の闘病の様子から、電話で話すことについても、「中西さんも遠慮されたと思うし、僕も遠慮して……」という状況だった。

 そのことが気に掛かるわけだが、「それまで中西さんとは基本的な哲学みたいなところで、非常に近いなと。共通の部分があるなというのをずっと意識していました」と十倉氏。

『ソサエティ5・0』を目指して

『ソサエティ(Society)5・0』──。日本が提唱する未来社会のコンセプトで、第5期科学技術基本計画(2016年度から2020年度の範囲)で打ち出されたが、この計画づくりに経団連も深く関わった。

 同計画の立案を担った内閣府のCSTI(総合科学技術・イノベーション会議)には、中西宏明氏と内山田竹志氏(トヨタ自動車会長)が議員として参画。

「ええ、これはCSTIと経団連で大事に育ててきた概念だと。Society5.0 for SDGs と謳っているように、SDGs(国連の持続性ある開発目標)達成に向けて、それを実現するためのSociety5.0ということで、皆さんに受けいれられてきたと思うんですね。1つの社会像です。サステナブルな資本主義に基づいての社会像ですね」と十倉氏。

 人類は、狩猟(Society1.0)、農業(Society2.0)、工業(Society3.0)、情報(Society4.0)を経て、Society5.0を迎えたということ。

 このSociety5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムを活用することで、新しい経済成長を促し、同時に社会的課題の解決を図っていこうというもの。

 中西氏がCSTIの議員を引いたあと、十倉氏が同議員となり、仕事を引き継ぐ。中西氏とは、「基本哲学や思いを共有してきた」と十倉氏が言う背景にはそうした経緯もある。

 では、十倉氏は経団連の会長として、どういうスタンスで仕事に取り組んでいくのか。

本誌主幹 村田博文

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