2021-09-07

【経団連会長・十倉雅和】のサステナブルな資本主義・市場経済を!

日本経済団体連合会会長 十倉 雅和



サステナブルをキーワードに活動

 サステナブル(持続可能)な社会を創りあげていく──。十倉氏は今年6月、経団連会長に就任する際、“サステナブル”をキーワードに、これからの経団連活動の方向性と共に、企業人の生き方を強調。

「これは、日本だけではなくて、世界全体がそうですが、僕らは次の世代、若い世代にいい地球環境、いい社会を残していかなければいけない義務があると」

 課題は見えている。所得格差、先進国と途上国との南北格差。異常気象を生み出すといわれる地球温暖化と、それの解決策としてのカーボンニュートラル(炭酸ガス排出ゼロ)へ向けての施策。またデジタル改革とは表裏一体のサイバーテロなどにどう対応していくかという課題である。

 さらに言えば、米中対立に見られる価値観の違いをどう克服していくかという重苦しい課題もある。

「これは経済活動においても、政治の領域においても、やはり絶対に譲れない価値観、守るべき価値観ってありますよね。それは自由、それから民主主義、法の下の平等、言論の自由等々、こういうのは絶対に譲れない。そういう譲れない基本的な価値を共有するところと組んで、マルチラテラリズム(多国間での協調主義)でやっていくことがまず基本だと思います」

 パンデミック、あるいは生態系の破壊といった問題を解決していくには、「一国では絶対にできない」と十倉氏は語る。

「ユヴァル・ノア・ハラリさん(イスラエルの歴史学者)が『21 lessons(21世紀の人類のための21の思考)』で書いていますが、一国主義では解決できない課題が3つあると。1つは核戦争。2つ目は生態系の破壊。これは気候変動や感染症によるパンデミックを含めて、生態系の保持が課題だということですね。3つ目の課題が破壊的な技術のコントロール、管理だと」。

 そうした基本認識を踏まえた上で、サステナブル(持続可能)な地球環境・社会の構築へ、みんなで協力し合っていくときという十倉氏の考え。

 そして、肝腎の経済の仕組み、その運営のあり方はどうか?

資本主義、市場経済の弊害を克服するには

「資本主義とか市場経済、これは僕自身は素晴らしい制度だと思います。資源配分も市場制度を通じてやる。私有財産も認めるなど、そういう市民改革で得た人権を前提とした制度で素晴らしいと思うんですけれども、やはりちょっと行き過ぎたところあって、市場の原理で全ては解決できないこともあるのだと」

30年前に世界は大きく揺れた。1989年、ベルリンの壁が崩れ、1991年には社会主義陣営の盟主・ソ連邦が崩壊。このとき、資本主義が社会主義に勝利し、“イデオロギーの時代の終焉”が言われた。

 しかし、この間、もう一方の社会主義の大国・中国は“社会主義市場経済”なる概念の下、経済成長を遂げ、2010年にはGDP(国内総生産)で日本を抜いて、米国に次ぐ世界2位の経済大国にのし上がった。

 その中国は香港の民主化運動を強権で封じ込め、新疆ウイグル自治区ではウイグル族への強権発動で統治、欧米など自由主義国側の批判を浴びている。

 自由主義・民主主義対専制主義・強権主義という構図の中で、価値観を巡る対立は企業活動にも大きな影響を与えつつある。「もともと米中の対立は、貿易不均衡から始まって、それから次は機微技術というか先端技術、基盤的技術の話になって、それが高じて今やイデオロギー対立ですよね」

 十倉氏は続ける。

「そこまでになってしまうと、やはりわれわれが譲れない価値観のところはしっかり守りながらやっていく。ただ、all or nothing では決してなくて、例えば機微技術でサプライチェーンをひょっとしたら米国を中心とする社会と、中国を中心とする社会というように、別のものを組まざるを得なくなるかもしれない」。

 十倉氏はそう基本姿勢を示しつつ、「世界は中国抜きでは経済が成り立ちませんし、中国だって世界抜きではあの10何億人の人を養っていけませんから、どちらも必要なんです」と強調。

 Competition with Cooperation(競争と協調)が必要──。「だから、アジアやASEAN地域は伸びてるわけですから、その経済発展に日本と中国は両方ともしっかり役割を果たしていかないといけない。そういう意味ではパートナーです。競争と協調、この2つで、したたかにという言い方は少し古いかもしれませんが、しっかりとやっていくことだと思います」と語る。

本誌主幹 村田博文

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事