2023-07-04

東レ・大矢光雄新社長の決意「成長領域開拓へ、研究・技術に加え、営業にも『横串』を刺していきたい」

大矢光雄・東レ新社長




消費をリードするZ世代が大事にする「物語」

 ─ 先程のリサイクルの観点ですが、東レでは「&+®(アンドプラス)」というブランドを持っていますね。

 大矢 「アンドプラス」は循環型社会実現のための1つの方策として、当初はペットボトルを繊維としてリサイクルするブランドとしてスタートしましたが、最近リブランディングを行いました。

 回収原料の種類を拡大するなどして、より消費者にとってメリットのある商品にして、マーケットに返していく事業にしていくことにしたのです。

 例えば今回、ナイロン製の漁網を回収して、それを再び漁網にしたり、別の製品にするという取り組みを打ち出しました。回収した商品をアップサイクルで消費者に届けることで、当社の事業に貢献するものとしてリブランディングしたのです。

 当社はこれまでもリサイクルに取り組んできましたが、回収などにはコストがかかります。それに対して、いかにお客様に買っていただくかという事業性を加味しなければいけません。

 1つは「Z世代」(1990年代後半から2010年代に生まれた世代)は環境にお金を払う意識があると言われます。リサイクル商品であれば、多少価格が高くても購入されるという行動が現実に起きているんです。

 そこで大事になるのが商品の信頼性です。それを確実に担保できるのは「トレーサビリティ」(追跡可能な状態)だということで取り組んでいます。

 さらにはリサイクル製品の質を向上させる取り組みも続けています。当社のイノベーション技術や他社との連携で、汎用品ではなく特品として生まれ変わらせる。これによって循環型社会の実現に貢献していきます。

 ─ Z世代は日本人の消費行動にどう影響を与えると考えていますか。

 大矢 Z世代が重視するのは「物語」です。当社は東京マラソンを協賛していますが、当日にランナーに提供された給水のペットボトルをスタッフの皆さんに回収していただき、我々が繊維にリサイクルして、24年の大会のボランティアウェアとして生まれ変わらせます。そうした物語をわかって買っていただくことが大事だと思うんです。

 しかも、そうした企画をしているマーケティングのメンバーはZ世代です。ですから、こうした取り組みには我々はあまり口を出さないんです(笑)。

 他にも、Toray Membrane USA社(TMUS)の今の社長はベトナム出身ですが、彼はベトナム戦争による混乱を受けて海外に移住した人々の一人だったんです。

 彼は苦労をしてアメリカに渡って、大学で学んでエンジニアになったという人です。ベトナムでは子供の頃、川の水を汲んで歩いて家に運んでいたそうですが、東レに勤めて、当社の膜を使って汚れた水を飲み水にする仕事をしている。当社では、その実話に基づく短編映画も製作しました。

 ─ モノづくりだけでなくコトづくりも進めているということですね。改めて、東レはどんな会社だと説明しますか。

 大矢 先端材料を創出する会社です。企業理念にあるように、創業以来新しい価値を創造して社会に貢献してきました。

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