2024-03-08

斉藤恭彦・信越化学工業社長「塩ビ、半導体関連に加えて、次世代ディスプレイなど新領域を開拓」

斉藤恭彦・信越化学工業社長

「目の前のことに集中して取り組む。その積み重ねが大切です」─。斉藤氏はこう話す。化学業界にあって、高い利益、時価総額を実現している信越化学工業。塩ビ、半導体ウエハーなど強みを持つ事業への積極的な投資で成長を続けてきた。加えて半導体の分野に向けたさらなる開発、ディスプレイにまで新たな事業領域を広げようとしている。斉藤氏が進める経営の形とは─。


住宅、半導体市場の行方は?

 ─ ロシアによるウクライナへの侵攻、イスラエルとパレスチナの紛争と地政学リスクのある中ですが、今後の世界経済への影響をどう見ていますか。

 斉藤 世界の政治や地政学については、それを専門にされている方が大勢おられます。私たち一企業としては、やるべきことは決まっていますので、それにしっかりと取り組むことに尽きると思います。

 ─ 業績を見ると前期に経常利益で1兆円超という高収益でしたね。今期は減益見通しとはいえ高水準の利益が続きます。

 斉藤 前期に記録した1兆円超の経常利益は過去最高の業績でした。この期は全ての事業が好調に推移し、中でも塩ビが業績の伸長に大きく貢献しました。

 この数年を振り返ると、着実に増益基調を続けてきました。今期についても、前期と比較すれば減益ですが、前々期と比較すると増益の見通しです。

 ─ 産業界全般でコロナ禍という厳しい環境下でしたが、その中でも増益基調だったと。

 斉藤 はい。まさに22年と23年の2期はコロナ禍にあり、世の中が経験したことのない事態に混乱を極めた時期でしたが、私たちの事業には想像以上に追い風が吹いたということです。

 まず塩ビ関連は、20年に入った頃が、米国で「ミレニアルズ」と呼ばれる、ベビーブーマー世代の子どもが成長し住宅の取得に意欲的となった時期にあたり、住宅需要が高まりました。その手応えを感じていたところにパンデミックが到来して、経済活動は一旦休止し、大きく落ち込みました。ところが、政府がロックダウン(都市封鎖)などの対策を解除した途端に住宅向けの塩ビの需要はV字回復しました。

 ─ 要因は何でしたか。

 斉藤 外出などの行動が制限される中、「仕方がないから家周りのことをやろう」と考える人が増え、家を修繕する動きが出て、塩ビも含めた建築材料が文字通り飛ぶように売れました。

 感染症が拡大する中でリモートワークが取り入れられ、米国では「郊外に大きな家を持ちたい」と希望する人が増え、需要が出てきました。人口動態的な需要増に加えて、新しい働き方に合わせた住宅需要が重なった形です。

 もう1つ、リモートワークで必要なPCなどの電子機器需要も出てきました。しかし、いま振り返ると需要を先取りした面が強く、その後の調整期間が長くなったわけですが、当時は追い風でした。

 ─ 今後の米国の住宅需要をどう見ていますか。

 斉藤 これまでインフレ抑制のために米国FRBは金利を上げてきたわけですが、それによって住宅価格もローン金利も上昇し、住宅が購入しづらくなりました。さらに、ローン金利が低い時期に住宅を購入した人達が、買い替えのための金利が上がったことで住宅を売れなくなってしまいました。中古が8割を占める米国の住宅市場が〝凍結〟されたわけです。

 それがここに来て、24年には金利が下がる可能性が出てきていますから、住宅需要がようやく復活すると見られています。

 住宅だけでなく、AI(人工知能)関連の投資もデータセンターを中心に増えてくることが予想されていますし、それらの投資に伴い半導体も復調することが予測されています。

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