「もうみんなが新しいものなんてないというところに新たな技術を」――東レ社長の日覺氏はこう話す。東レは今、「ナノ」、つまり1メートルの10億分の1に相当する大きさのレベルを追求することで製品を変えている。さらに、長年開発を進めてきた炭素繊維は、コロナ禍による航空機向けの需要減もあったが、新たな需要を開拓し、利益を出す状況になっている。日覺氏が考える今後の方向性は――。
繊維、樹脂の世界で新たな技術を開発 ─ 今、企業にとっては混沌期をどう生きるかが問われていると思います。日覺さんは日頃から「極限追求」、徹底していいものをつくることが東レの伝統だという話をされていますが、改めて、この考え方を聞かせて下さい。
【あわせて読みたい】「一部のお金持ちだけが富を享受するのはおかしい」【東レ社長・日覺昭廣氏】が唱える”日本的経営” 日覺 マシンを買ってきて、どこでもできるような製品は、新興国などがどんどん入ってきますから、それだけでは価値を取ることができません。価値が取れないということは価格が上がらないということですから、コスト競争に陥ってしまう。
我々としては、研究開発力、技術力が売り物といいますか、強みですから、コスト競争ではそれが生かせないようになってしまいます。その意味で、徹底的に「極限追求」をしていくと。
─ 例えば、どのような形で開発力、技術力を「極限追求」していますか。
日覺 一番いい例は繊維だと思うんです。繊維の世界における根本的な技術である「口金」(合成繊維原料を押し出す工程に使用される)の技術は、もう100年近く取り組んでいますから、もうみんなが新しいものなんてないと思っています。
そう思っているところへ「ナノデザイン」(東レが開発した革新的複合紡糸技術。繊維の細さや形をナノレベルで制御し、全く新しい繊維を創り出す)という技術を活用すると、製品が全く変わってしまうんです。
これまで実現できなかった細さの糸や、変わった断面の形状、異なる原料の組み合わせを、それこそナノレベルでコントロールできます。これによって、例えばカジュアルウェアでも、新しい機能や全く違う風合いを持たせることができるのです。
─ 新技術によって、まだまだ掘り起こせる分野はあると。
日覺 そうです。繊維だけでなく樹脂の世界でも「ナノアロイ」という技術があります。この技術はナノメートルオーダー(1メートルの10億分の1に相当する大きさ)で複数のポリマー(樹脂成分などの高分子)をアロイ(混合)するものです。
ミクロレベルで混合したものと、ナノレベルで微分散させて混合したものでは、全く違うものになるんです。