2022-08-19

【政界】元首相の死で権力構造が変化 問われる岸田首相のリーダーシップ

イラスト・山田紳

※2022年8月4日時点

政界はまさに「一寸先は闇」。自民党最大派閥の安倍派を率い、財政、安全保障、人事などで岸田政権に影響力を行使してきた安倍晋三元首相が街頭演説中に銃撃され、この世を去った。安倍派は現体制を維持して難局を乗り切る構えだが、政権内での地位低下は避けられない。首相の岸田文雄にしても、これを機に麻生、茂木両派に軸足を移せば、これまで安倍が束ねてきた保守派から不満が噴出する可能性がある。ただ、足元ではエネルギーや物価高騰に対する対応やウクライナ危機などが山積。参院選から息つく暇もなく、リーダーとしての力量を試される局面が岸田に訪れた。

【政界】参院選後、岸田首相に問われる『覚悟』と『決断』

「保守層が逃げる」

 首相官邸の中枢の一人は7月中旬、親しい自民党議員にこう漏らしたという。「安倍派がどんな体制になるにしても、よく持って安倍さんの四十九日までだろう」

 参院選は当初から自民党の優勢が予想されたため、党内の関心は早々と選挙後の人事に向いていた。一時は、岸田が8月3日召集の臨時国会に合わせて党役員人事と内閣改造を行うという観測さえ流れたほどだ。

 しかし、投開票の2日前、安倍が凶弾に倒れ、事情は一変した。前首相の菅義偉は7月13日のBSフジの番組で「(岸田は)四十九日法要などさまざまなことに配慮するのではないか」と指摘。政府・与党内では、人事は9月上旬との見方が有力になっている。

 焦点は、岸田が政権発足時の派閥均衡型から一歩踏み出すかどうかだ。銃撃事件がなければ、安倍と官邸は今ごろ激しい駆け引きを演じていたに違いないが、官邸中枢と菅の言葉を重ね合わせると、安倍の四十九日が過ぎれば、岸田は思い切った人事が可能になるのか。

 安倍派会長代理の下村博文は参院選の翌日、BS日テレの番組で「岸田さんはもともとリベラル系。自民党のコアな保守の人たちは安倍さんや安倍派がつかんでいる。それを疎んじるようなことになったら、保守の人たちが自民党から逃げるかもしれない」と語った。人事で安倍派をないがしろにしたら黙っていないというけん制だ。

 確かに、安倍は岩盤保守層から支持されてきた。集団的自衛権の限定的な行使容認や、先の大戦の反省と謝罪を含む戦後70年談話などは、保守派ににらみがきく安倍だからこそ実現できたとも言える。下村の主張はある意味で正論だが、今となっては、安倍の威光にすがろうとすればするほど安倍派の苦境は際立つ。

 一方、岸田は人事について「内外に歴史を画するような課題が山積している。こうした状況の中では、何よりも与党の結束が大事だ。適材適所、そのぐらいは頭にあるが、それ以上は決まっていない」(7月14日の記者会見)と慎重に言葉を選ぶ。「人事好き」と評判の岸田も、現段階で党内に余計な摩擦を生むのは得策でないとわかっているからだ。

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