2022-08-19

【政界】元首相の死で権力構造が変化 問われる岸田首相のリーダーシップ

イラスト・山田紳



7人も双頭も消え

 衆参両院で90人を超える国会議員が所属しながら、安倍派には衆目の一致する安倍の後継者がいない。安倍が67歳と政治家としては若く、3回目の首相登板を期待する声も根強かったためやむを得ない面はあるが、突然の死でその弱点がにわかに露呈した。

 安倍は昨年、月刊誌のインタビューで「ポスト菅」候補として下村、前経済再生担当相の西村康稔、経済産業相の萩生田光一、官房長官の松野博一を挙げた。安倍の父・晋太郎の会長時代に派内の実力者だった三塚博、加藤六月、塩川正十郎、森喜朗に模して、下村らは「四天王」と呼ばれる。

 しかし、菅が首相退陣を決意した後の自民党総裁選で、4人は安倍派(当時は細田派)の総裁候補にはなれず、安倍は無派閥の高市早苗を全面的に支援した。決選投票では岸田に乗り換えたものの、当時のいきさつが、その後の岸田と安倍の関係に微妙な影を落とす。

 派内の構図は総裁選時と何ら変わっていない。安倍の死去を受け、四天王の一角が動き出した。下村と西村だ。

 下村は会長ポストが自分に回ってくるのを期待したが、派内には反下村勢力も少なくない。そこに時事通信が「安倍派は後継会長を置かず、有力者7人による集団指導体制で派閥を運営する」という内容の記事を配信し、混迷がさらに深まった。

 7人とは、四天王のほか会長代理の塩谷立、参院幹事長の世耕弘成、国会対策委員長の高木毅。下村に実権が移るのを阻止する狙いは明らかで、「西村か世耕の発案ではないか」(安倍派中堅議員)とささやかれている。

 下村と塩谷は「双頭体制」による派閥運営で対抗しようとしたが、7月19日の幹部会では、会長を空席にしたまま、安倍が指名した幹部の顔ぶれを変えないことで妥結した。内閣改造と党役員人事を見すえて派閥が割れないことを最優先した結果だ。終了後、塩谷は「(報道されたような)集団指導体制や双頭体制はない。今は喪に服している状態だ。国葬が済むまで今の体制で進む」と記者団に説明した。

 出席者によると、幹部会では世耕が「情報管理がなっていない」と激怒したという。記者対応を塩谷に絞ったのは、幹部間で意見の違いが残っている証拠だ。

 当面、安倍派の窓口役は当選10回で最年長の塩谷が務める。ただ、塩谷がそのまま会長に就任するとは考えにくい。昨年の衆院選の小選挙区で落選し、比例代表で復活した経緯から、求心力に疑問符がつくからだ。会長空席は懸案の先送りでしかない。

 安倍派には、岸信介、福田赳夫両元首相に連なる二つの系譜があり、会長交代を巡って過去に分裂を繰り返した。他派の幹部は「もともとミシン目が入っている。それがついに裂けるのか、誰かがホチキス役になるのかはまだ見えない」と安倍派の動向を注視している。

 安倍の国葬は9月27日に行われる。しかし、そのころには人事は終わっている。そこまで安倍派は結束を保てるのか。むしろ冒頭の「四十九日」説が現実味を帯びる。

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