2022-02-18

【「東急ハンズ」売却】なぜ、東急不動産ホールディングス・西川弘典社長は決断したのか?

西川弘典・東急不動産ホールディングス社長

全ての画像を見る


2022年の不動産市況をどう見る?


 本業である不動産が置かれている事業環境は不透明だ。コロナ禍で働き方などが変わり、オフィスの空室率が上昇する局面もあった。一方で住宅では都心マンションの値上がりが続く。

 西川氏は22年の不動産マーケットをどう見ているのか? まずオフィスについては「空室率という指標だけ見ると、だいぶ落ち着いてきたというのが正直なところ」だという。

 エリアによって状況が違うことに加え、そのエリアの中でも立地条件、ビルの性能によっても変わってくる。

 東急不動産がSクラス・Aクラスのビルに入居するテナント企業にアンケート調査をしたところ、7割の企業が「現状維持、もしくは増床したい」、3割の企業が「減床したい」と回答。「この回答は私の肌感覚とも合っている」と西川氏。

 東急不動産が現在公表している自社のオフィスビルの空室率は1.1%で、ほぼ満床というレベルだが「この要因は渋谷」(西川氏)。渋谷にはデジタル系企業が集積しているが、これらの企業はコロナ禍にあっても好業績のところが多く、事業を拡大している。そのため、オフィスの増床ニーズも強い。

 地政学リスクや米国の金融政策の変更もあって、経済の先行きは予断を許さない。ただ、日本では量的緩和、低金利の中で「安定資産」としての不動産に資金が回っている面は強い。

 また、先進国の中でも東京の不動産は質の高さに比べて価格が極端に安いという評価を受けており、外国人投資家が買いに来ていることも背景にある。

 そのため「不安要素は多いが、すぐに下落していくかというとそういうことはないのではないか」というのがオフィス市況に関する西川氏の見方。

 また住宅、マンションについては不動産経済研究所が発表した21年の首都圏の新築マンションの平均価格は6260万円となり、バブル期の6123万円を上回り過去最高となった。

 例えば、東急不動産が東京の江東区豊洲で販売した「ブランズタワー豊洲」は坪単価300万円台中盤から400万円前後という価格で、当初は社内外から「本当に完売できるのか? 」という声もあったが、結果人気物件となり完売。「住宅も引き続き堅調」と西川氏。

 一方、コロナの影響でホテルや都心の商業施設など人が集まる場所については厳しい状況が続く。ただ、ホテルの売買価格が極端に落ちているかというと、そういう状況にもないという。

「不動産市況が大きく悪化する要因は見当たらない。コロナがどういう形で収束するかは別として、日常の経済活動が戻ると個人消費が回復し、それが押し上げ効果につながる」

 22年を迎え、西川氏は社内にまず、22年3月期の営業利益を「コロナ前水準にV時回復させよう」と訴える。業績見通しでは800億円となっているが、「確実にやり遂げて上積みを狙おう」と鼓舞している。

 そして「これまでの延長線上で物事を考えるのはやめよう」とも訴える。コロナ禍で社会には様々な変化があったが、医療・衛生面以外は「コロナ禍以前からあった変化が前倒しされただけに過ぎない」という認識。

 そのため「ゼロから仕事の枠組みを考えていこう」というのが西川氏の考え。そして自らの事業だけを見るのではなく、全事業の川上から川下まで見ることを意識。「その中に変革、ビジネスチャンスが出てくるのではないか」と話す。

 例えばデジタル化が進めば進むほど、むしろ顧客との接点はより高品質、高いホスピタリティが求められるようになるのではないかと指摘。「お客様と接点を持っている人間が、事業に強い影響を及ぼしていくというのが全ての事業においてあるべき姿ではないか。我々の仕事を見つめ直す絶好のチャンスをもらったと思う」

 自社の象徴だった事業を売却し、まさに「聖域」をつくらずに会社を変える姿勢を示した今、それを眼に見える業績という形で見せていくことが今後、さらに求められている。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事