2022-02-18

【「東急ハンズ」売却】なぜ、東急不動産ホールディングス・西川弘典社長は決断したのか?

西川弘典・東急不動産ホールディングス社長

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「カインズさんなら東急ハンズを生かしてくれる」


 売却先候補は数十社に上ったが、その中の1社がカインズだった。東急不動産HD本社でのプレゼンには、創業家出身で会長の土屋裕雅氏、社長の高家正行氏が来社。高家氏は「日本のDIY(自分で身の回りのものを作り、修繕すること)で共創していきましょう」と熱く語ったという。西川氏は「こういう人達なら、東急ハンズを生かしてくれるかもしれないと思った」と振り返る。

 カインズはデジタル化、PB開発に注力してきた企業で、これは東急ハンズが目指してきたもの。カインズにとって今回が初めての買収となるが、「DIY文化の共創」を訴える同社の姿は、創業以来「手の復権」を掲げる東急ハンズの理念と重なる。

 多くの候補企業から絞り込む作業と同時に、社内の〝納得感〟を得る作業も簡単ではなかった。なぜなら、東急ハンズは東急不動産グループにとって「象徴的」事業だったからだ。

 不動産会社が小売業を始めたという異業種からの進出だったことに加え、「都市型雑貨店」という今までにないジャンルを切り開いた業態だった。「小売業の方が手掛けたら、決してできなかった業態ではないか。例えば社員の目利き力を生かした『個別仕入れ』などは小売業から見ればあり得ない形」(西川氏)

 東急グループの2代目としてグループを牽引した五島昇氏は東急ハンズの会長も務めていたが、その独自性を貫くために「小売の人に相談をするな」と社内に説いていたという。

 まさに既存の常識を破る存在だったわけだが、「『これが東急不動産の組織風土、企業文化です』とご説明するよりも、『東急ハンズを立ち上げたんです』と話した方が、企業文化について語りやすかった」と西川氏。

 渋谷や池袋、新宿といった一等地で都市型雑貨店を成立させたという意味でも、業界から一目置かれる存在だった。

 だが現状は21年3月期で44億円の営業赤字、前述のようにEC化、PB開発が急務で、抜本策が必要。しかし皆、頭では理解しても思い入れが深いために、社内説明は容易ではなかった。これに対しては「まさに懇切丁寧に説明し続けたということに尽きる」(西川氏)

 東急ハンズは手放すが、ある一定期間はブランドを生かす意味で屋号は残る。事業上も関係が続く可能性は高く、「私としては、これを機会にカインズさんとは〝親戚付き合い〟が始まればいいなと考えている」と関係を継続していく考え。

 東急ハンズは東急不動産グループに精神として何を残すのか?「DIY文化がカインズさんによって受け継がれていけば『創業したのは我々』という意識を持ち続けることができるのは大きな財産」と西川氏。

 一方で課題もある。それが「自前主義からの脱却」。前述のように成功体験が強かったがゆえに、ECやPBといった時代の変化への対応が遅れた面がある。今回の売却は、その教訓を社内に伝える意味合いもある。

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