2021-12-01

南町田や武蔵小杉などで官民連携 「域内移動」を創出する【東急】の郊外再活性化策

10月26日に開業した「こすぎコアパーク」

コロナ禍で鉄道需要が蒸発したいま、鉄道の新たな役割とは――。テレワークを導入する企業が増えたことで郊外から都心に通勤する移動ニーズが減少。主力事業の収益力低下を余儀なくされる中、生き残りをかけて新たな移動ニーズを創出するために東急が目を付けたのが郊外での再開発だ。自治体との連携で新たな仕組みをつくろうとしている。

渋沢栄一の郊外まちづくり

「東急の源流は渋沢栄一が中心となって1918年に設立した田園都市株式会社。当時、都心では人が集中して住みにくい環境になっていた。それを回避するため、郊外に街を作り、そこで人間らしい生活を送ってもらうという発想で開発を始めた。事業を通じて社会課題を解決するDNAは今でも生きている」――。東急社長の髙橋和夫氏は創業者の思想が今でも自社に根付いていることをこう話す。

 コロナ禍の2年弱で鉄道会社を巡る環境は大きく変わった。これまで当たり前だった郊外から都心の勤務地に通勤するという行為がなくなったからだ。東急もこの影響を色濃く受ける。2021年3月期の売上高は9359億円(前年比19・6%減)、純損益は562億円の赤字。鉄道以外も含めた多くの事業が「人の移動」を前提としており、外出自粛の直撃を受けた格好だ。

 中でも鉄道の同期の定期券利用者は前年より3割以上減った。東急によると、その幅は首都圏の私鉄では最大級。沿線にはIT企業を中心に、テレワークを採り入れやすい企業に勤める住民が多いためだと説明する。

 同社は22年3月期の鉄道の定期外の利用は2割ほど回復する一方、依然として定期利用の回復は1割にも満たないと見通す。「ポスト・コロナ禍ではテレワークが一定程度定着することは間違いないだろう。その前提に立って沿線での移動需要をどのように創造するかが勝負どころとなる」と同社幹部は語る。

 そんな苦境の中で東急が見据えるのが「域内移動」だ。郊外の自宅最寄駅から都心の勤務最寄駅までの通勤需要だけでなく、「自宅の最寄り駅から数駅の移動」(別の幹部)を取り込むという戦略を指す。言い換えれば「小さな移動」(同)をいかに積み重ねていくかということ。そのためには、ちょっとした移動を誘発する仕掛けが必要になる。

 実はコロナ前から東急は、沿線で官民連携の再開発や公共施設のリニューアルに取り組んでいる。例えば、その際たる事例が「南町田グランベリーパーク」。駅直結の商業施設という設えになるが、グランベリーパークは商業施設と都市公園を一体開発した点が特徴となっている。

 都市公園は町田市が保有する「鶴間公園」だが、東急のグループ会社を中心とした民間企業が指定管理者として市から同公園の管理・運営を受託しているのだ。以前は公園と商業施設を分断する形で道路が走っていたが、これを廃して外周に付け替えるなどの再整理を実施。結果、公園と商業施設が連続する形となり、来園者は商業施設のにぎわいと公園の憩いを双方で利用し合えるようになったのだ。

「鶴間公園は従前より明るく、にぎやかになった」と地元住民。公園にあった木を3分の1ほど間引いたことで明るさを確保した。また、東急の商業施設に入居するテナントと協業し、たき火体験や窯焼きピザ作りといったイベントを開催。地元サッカーチームの選手たちによる交流会などを開いたりしている。

「例えば、普段は渋谷に買い物に行っていた、たまプラーザの住民が逆方向の南町田に来てみたいと思うような仕掛けを施すことが重要」(関係者)。沿線外からの誘客も重要だが、近隣に住む沿線住民をいかに惹きつけるかがポイントになるとの考え。

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