2021-06-30

【政界】行政の縦割り構造など「有事」に弱い日本をどう立て直していくか?

イラスト:山田紳



後手の対応

 こうした緩みとワクチン接種の遅れは、関係ないとは言えない。5月のパレスチナへの連日の空爆に象徴されるように、常に戦時体制にあるイスラエルは6月初頭の段階で8割以上が接種を終えた。接種には当初から軍も積極的に関与した。接種率が5割を超える米国、英国、カナダなども早期から軍が協力してきた。ウイルスと戦争とでは「敵」が異なるが、国を挙げて取り組む有事対応という意味では共通している。

 その対応が日本はお粗末だった。決定的な要因の一つは国産ワクチンの開発が進まなかったことだ。国内で承認されたワクチンはファイザー、モデルナ、アストラゼネカとすべて外国産で、日本は完全に出遅れた。

 政府は6月1日にワクチン開発・生産の長期戦略を閣議決定。世界トップレベルの研究開発拠点の整備、研究費の戦略的配分、治験を速やかに進めるための体制整備、ワクチンの国による買い上げ──などの内容だが、感染拡大から1年以上も遅い決定だった。

 行政の目詰まりも指摘される。菅は2月に承認されたファイザー製ワクチンについて、厚労省が国内での治験を過度に重視していることに「厚労省が抵抗して進まない」と周辺に漏らしていた。有事でも平時の対応に終始していることへの不満だった。

 コロナ対応全般で言えば、地域の健康・衛生を支える保健所の機能低下もある。各自治体が運営主体の保健所の数は、市町村合併や合理化の流れで減少傾向にある。1991年度は852あったが、30年後の2021年度は470にまで減り、多くの地域で感染者の相談・対応といった業務がパンク状態に陥った。

 法的な不備も露呈した。感染拡大を防止するためのロックダウン(都市封鎖)など、欧米では当たり前の対応が日本ではできない。飲食店などへの強制力を持った休業要請が可能になったのは、コロナの感染拡大から1年が過ぎた今年2月だったが、逼迫するコロナ感染者用の病床確保を強制的に行う手立ては現在もない。

 こうした問題意識は菅も抱いており、4月23日の記者会見で「医療関係者に対する政府の権限は『お願いベース』でしかないのが現実だ。緊急事態に対応する法律を改正しなければならないと痛切に感じている」と訴えた。しかし、2カ月近く経過しても「法律の限界」を打破するための打ち出しはない。

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