2021-06-30

【政界】行政の縦割り構造など「有事」に弱い日本をどう立て直していくか?

イラスト:山田紳



有事のもろさ露呈

 結果的に菅の狙い通りになっているわけだが、泥縄式の対応には違いない。安倍晋三政権の2014~19年に自衛隊制服組トップの統幕長を務めた河野克俊は5月12日の日本記者クラブでの記者会見で「もっと早めに手を打つべきだった。危機管理として失敗している」と批判した。

 河野は5月14日放送のニッポン放送でも「自衛隊は世のため人のためなら喜んでやるという体質がある組織なので、士気高くやってくれる」と前置きした上で、「打ち手が足りるのかということは2020年の時点でわかっていたはずだ。半歩も一歩も遅れたのではないかという印象だ」と語った。

 有事対応の実務責任者だった河野の発言は重い。しかし、東京と大阪に大規模接種センターを設置し、運営を担う防衛省・自衛隊にもミスが露呈した。

 防衛省は5月19日、同月24~30日分の予約枠について、東京と大阪で計7万3500回分に修正すると発表した。当初は計7万5000回分と説明していた。原因は「省内での情報共有にミスがあった」ためだという。「わずか1500回分」ともいえるが、戦闘時に人員や弾薬などの装備の数を間違えれば、致命的な打撃を受けることにつながりかねない。

 ワクチン接種の運営という今まで想定も経験もしたことのない任務で不慣れだったかもしれない。しかし、悪いことは重なった。

 5月20日には防衛副大臣の中山泰秀が参院外交防衛委員会に約2分遅刻した。厚労副大臣の三原じゅん子が1週間前の参院厚労委に遅刻し、国会運営に支障が出たばかりの出来事だった。

 中山の遅刻の原因も、質問を予定していた与党議員が急遽、質問を取りやめ、中山の答弁の時間が早まったことが本人に伝わっていなかったという「省内の情報共有ミス」だった。予約枠の間違いや遅刻は「ごめんなさい」で済むかもしれないが、戦争では初歩的なミスが多くの犠牲者を生むことにつながりかねない。

 ちなみに海上自衛隊には、旧海軍以来の伝統である「5分前行動」の精神がある。予定された作業の5分前には準備を整え、配置について発動を待つという心構えで、「厳格な時間的観念を植え付け、有事の作戦行動に支障の無いことを終極の目的とする」(海自幹部候補生学校のホームページ)。幹部候補生に徹底的に叩き込まれているはずのこの精神が副大臣らには生きていなかった。

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