2021-06-06

【人気エコノミストの提言】米国の富裕層課税は成功するか

バイデン米大統領は、インフラ投資の財源として、法人増税を打ち出した。超富裕層の所得は、主に保有する株式など金融資産から得られるため、法人増税は効果的な富裕層課税と言える。背景には、イノベーションが進んでも、恩恵を享受するのが富裕層ばかり、という認識がある。今後は所得税や資産課税の強化も検討するという。

 現在、先進各国の所得税の最高税率は40%前後だが、70年代頃までは70―90%が普通だった。各国で経済格差が課題になっており、レーガン・サッチャー革命以降続いてきた「底辺への競争」は既に方向転換したように見える。今後、富裕層課税が進むのか。

 まず、19世紀を通じ富裕層への課税はほとんど行われておらず、累進課税が導入されたのは第一次世界大戦からだ。当時も経済格差は大きく、共産主義や全体主義の台頭が強く懸念されていた。ただ、スタンフォード大学のケネス・シーヴ教授らの研究によると、経済格差が主因ではない。

 第一次大戦と第二次大戦の二度の総力戦は、徴兵を通じ多大な犠牲を国民に強いた。徴兵されない場合も、戦時下でインフレ回避のため労働者は賃金を低く抑え込まれ、スト権も抑制された。富裕層は、徴兵を回避しただけでなく、軍需増大で、多大な戦時利得を享受した。そうした特権の埋め合わせとして、各国で富裕層課税が容認されたのだ。

 20世紀初頭は先進各国で男子普通選挙が普及した時期とも重なるが、選挙権拡大は必ずしも富裕層課税には直結していないという。最高税率の引き上げで経済格差が縮小したのは事実だが、経済格差が拡大したから、最高税率が引き上げられたという因果関係は、シーヴ教授らのデータ分析からは確認されていない。

 課税には、人々が納得する「公正さ」が求められる。「平等な扱い」や「応能負担」といったロジックは重要だが、それだけでは当時の富裕層への高税率は説明できない。一般国民が兵役という「現物納税」を迫られる一方、富裕層は多大な「戦時利得」を獲得したため、それを相殺するという「補償の論理」によって説明可能というのがシーヴ教授らの結論だ。累進課税をもたらしたのは戦争であり、民主主義の必然ではなかった。

 第二次大戦の後、大国間の戦争は回避され、軍事技術の進展もあり、大規模動員の時代は終わる。その後、富裕層への高税率が維持不能となったのは、もはや「補償の論理」が通用しなくなったからだ。レーガン・サッチャー時代に、低成長打破を目指し最高税率が引き下げられたという通説は、理由の一つでしかない。

 それではバイデン大統領が掲げる富裕層増税は成功するか。現在は正にコロナとの戦いの最中にある。また、コロナ危機で富裕層が益々、裕福になったのも事実だ。ルーズベルトほどの大改革は難しいものの、すっかりフラット化した実効税率に多少の累進性が復活されるのだろう。

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