2021-04-28

「応用地質」の地盤3次元化技術 防災・減災で日立やトヨタも注目

成田賢・応用地質社長

東京の地下はどうなっているか──。地中の構造を3次元化する術を持つ企業がある。東証一部に上場する「応用地質」だ。社長の成田賢氏は「地質工学と土木を結び付けて地盤という基礎部分を把握できるようにしている」と話す。東日本大震災から10年が経ち、台風などの自然災害が増加する中、防災・減災、さらには環境の側面からも「地質調査」で首位となる同社の出番が増えている。

地盤の構造を3次元で可視化

「地面から下の地中がどのような構造になっているか。それが判る3次元での可視化を求める声が日増しに強くなっている」──。このように市場環境を語るのは地質調査首位の応用地質社長の成田賢氏だ。

 道路やトンネル、堤防、ダム、ビルといった構造物は生活や経済活動を営む上でも不可欠。しかし、生活インフラの役割を担う道路やトンネルなどは建設後50年以上が経過し、その老朽化が深刻な問題となっている。

 そんな地面の下の地層がどのようになっていて、その上に構造物を建設して安全なのかどうかを知りたいというニーズは年々高まっている。そのニーズに応えているのが地面や地中を調査する「地質調査」のエキスパート・応用地質だ。

 地質調査とは、地中に対して振動や電波などを送り、地質、土質、地下水の状態、形状、量などがどんな構造になっているかを把握するもの。国内には同事業を展開する企業が約1200社あるが、同社は圧倒的ナンバーワンに位置付けられる。

 1957年設立の応用地質(当時、応用地質調査事務所)は東京タワーをはじめ、名神・東名・中央各高速道路や東海道新幹線など「高度成長期を支えた社会インフラを建設するためのベースとなる地質調査には、ほとんど関わっている」(同)。最近でも東京湾アクアラインや関西国際空港などの大規模な土木構造物の地質調査にも携わった。

 同社の強みは地震に絡む地質調査の技術士や博士が約750人いることに加え、「地震に関する調査は前回の東京五輪が開催された1964年に発生した新潟地震から始めた。そのときから積み上げてきた知見とノウハウを持っている」(同)ことだ。しかも、地質を調査するための水位計や傾斜計、地震計なども自社で作っているほどだ。

 さらに同社は民間企業として唯一、スーパーコンピュータを使った地震動のシミュレーションを行うことができる。成田氏は「政府や自治体が発表するハザードマップで、地震に伴う津波がどれほどの被害をもたらすか。首都直下型地震が起きたときの液状化の被害がどのくらいの範囲に及ぶのか。さらには風向きなどの気象条件を加味して火災の延焼がどこまで広がるかといった確率計算の基は当社が提供している」と話す。

 そして応用地質を際立たせるものが業界オンリーワンとなる「地盤3次元化技術」だ。様々な物理現象を用いて地盤の内部構造を3次元で可視化することができる。海や砂漠などで地中に埋もれるガスや石油などを探索する技術は確立されているが、都市部などの構造物が多いエリアであっても立体的に把握することができるのは同社だけだ。

 応用地質にとって追い風となっているのは、防災・減災や生態系の調査といった環境ニーズの拡大だ。2012年に起こった中央道の笹子トンネル天井板崩落事故や15年に横浜で起きた傾斜マンション問題、その翌年に発生した博多駅前道路陥没事故などを受けて、「地中のデータベースがなく、地中の全容が掴めていないことを懸念する声が一気に高まった」(同)のだ。

 また、ESG・SDGsに代表されるように、産業界を含めて環境への意識が高まり、製造業などの工場内の敷地の汚染状態とその対応策の提示や電力会社の発電所の立地コンサルティング、さらには洋上風力発電も「今後伸びていくだろう」と成田氏は期待する。

地下埋設物の3次元可視化

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