2023-10-30

安全保障貿易情報センター顧問・坂本吉弘「将来の国力の源泉となる基礎研究、経済力の裏付けになる技術力、教育力の振興をこそ」

坂本吉弘・安全保障貿易情報センター顧問(元通商産業審議官)




「グローバルサウス」が台頭した今…

 ─ 中国は長期構想で世界の覇権を目指していますね。これと対峙しながらも友好も模索していくと。

 坂本 ええ。中国は毛沢東が中華人民共和国を建国して100年にあたる2049年に、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカに比肩することを目指しているようです。「100年マラソン」を走っていると言われています。隣国として、この国とは長い目で見て、やはり「競争しながら共存する」という道しかないのではないかと。

 日本はインドを含むアジアと力を共有し、安全保障、経済、技術、気候変動などあらゆる課題について、しっかり対話をして共通点を見出していくことが大事ではないでしょうか。

 ─ 今はかつてのように先進国が世界をリードするというよりは「グローバルサウス」と呼ばれる新興国の存在感も無視できなくなっています。

 坂本 その通りです。新興国の力の向上とともに西側の戦後国際秩序のコンセプトに対して必ずしも従順ではありません。これには理解を示す必要があります。そしてグローバルサウスの国々は、西側諸国、中国のどちらからより有利な恩恵を受けられるか、どちらが自らの体制に理解があるのかなど、比較衡量していると思います。

 近年、アメリカは「民主主義」とか「人権」とか、イデオロギー的側面を強調するあまり、友を失う傾向がありました。その間隙を突いて中国は「一帯一路」のコンセプトなど、表向き経済の論理で多くの国を友好国にし始めています。過日、長く対立関係にあったイランとサウジアラビアを中国の仲介で和解させたのは、注目すべき外交現象と言えましょう。

 米中2国間関係についても、軍事的に機微な半導体、AI(人工知能)といった技術についてアメリカは厳格な対中規制をかけていますが、それ以外の、例えばアップルやテスラなどは中国市場でどんどん事業を展開しています。サプライチェーンの安全性についても、当初の「デカップリング」から近時「デリスキング」にと変化しつつあります。

 ─ 日本も今後、難しいカジ取りが求められますね。

 坂本 その通りです。安全保障を考えずに経済に全力を投入できた幸せな時代は終わりました。「資本に国境はない」とうそぶいた新自由主義時代も終わり、世界中で国家観を持った「産業政策」が導入されています。

 国力は「DIME」、すなわち外交(Diplomacy)、情報(Intelligence)、軍事(Military)、経済(Economy)という4つの力が総合されたものと言われます。そのうち、わが国が相対的に弱いのが情報力、軍事力です。とりわけ、近時インテリジェンスの世界で急速に存在感を増している「サイバーインテリジェンス」のあり方を制度面、技術面から抜本的に再設計して強力にする必要が指摘されています。

 経済力は相対的には強いと思いますが、近時、国際競争力は低位になりつつあります。経済力の裏付けとなる技術力の強化、その技術力を支えるのは「STEM(Science,Technology,Engineering,Mathematics)」に代表される教育の力です。日本の唯一の資源である人的資源を生かすために、小学校から大学に至るまでの教育にいま一度注力して欲しいですね。

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