2023-10-30

安全保障貿易情報センター顧問・坂本吉弘「将来の国力の源泉となる基礎研究、経済力の裏付けになる技術力、教育力の振興をこそ」

坂本吉弘・安全保障貿易情報センター顧問(元通商産業審議官)




中国、アジアとの今後の関係構築は?

 ─ こうした現状は、やはり日本の戦後のあり方が問われているのだと思いますか。

 坂本 ええ。戦後日本の言論空間、思想空間は、戦勝国の対日占領政策の背後にある「虚」の世界像によって影響されてきた。未だ「東京裁判史観」の影が残っています。そのマインドセットから、なかなか抜け出せないところに日本のジレンマがあるように思います。

 ─ 世界は今、第2次世界大戦以来の緊張感に包まれているのではないかと思いますが。

 坂本 そう思います。第2次世界大戦が終わって、すでに80年近くが経っています。その間の力関係の変化によって、新たな緊張感が出ています。その中で、ただ新興勢力の中国だけを批判していても、世界の安定は期し難いでしょう。

 私個人としては権威主義という個人を抑圧するシステムは受け入れ難いのですが。

 ─ 日本はどういう対応が求められますか。

 坂本 やはり一言でいえば「競争的共存」の世界を目指すべきではないですか。最近時の動きを見ると、アメリカもこうした立場に傾いている兆候が見られます。一部には「そんな弱腰では中国にいいようにやられてしまう」という懸念の声があります。しかし、中国も勢力拡大には努めても、熱い戦争を望んでいるとは思えません。「戦わずして勝つ」のが孫子以来の伝統的な戦略でしょう。

 また、中国は常に超長期の視点に立って「力の均衡」を考えています。それに対してアメリカは力があるから、やや即断即決の対応になりがちです。中国と対峙しつつも、アジアの一国として、アメリカのアジア戦略とは自ずから異なるところがあってもいいのではないか。その点でアメリカを飲み込んだ「自由で開かれたインド太平洋」というコンセプトは、この地域に根を下ろす国々のベースとして大事にする必要があります。

 と同時に、中国と対決するだけでなく、これからの世界の成長センターであるインドやアジア諸国と利害を共有しながら共に発展するという道を模索するべきではないでしょうか。

 ─ アジアの国々は、中国との経済関係を重視していますから、彼らの意思を見定めていくことも必要ですね。

 坂本 ええ。アジアの国々は中国と対決しようとは思っていません。安全保障はアメリカに依存する、経済は中国市場に期待するという現実を踏まえています。従って、インドのような立場にならざるを得ないのではないかと思います。

 その限りにおいて、日本もアジアの中堅国家として、アジアから孤立しないように注意深く振る舞う必要があります。

 一方、安全保障面では、中国の合理的ではない行動を批判することも大切です。中国は南シナ海に「九段線」を引き、自分の領海だと主張していますが、この主張は国際仲裁裁判所が否定しましたが、中国は受け入れていません。

 また、直近では東京電力福島第1原子力発電所の処理水を、科学的根拠のない「核汚染水」だとして、日本の水産物の輸入を規制しています。中国特有の「心理戦」でしょうか。

 しかし同時に、中国の力を無視できません。日本を含むアジアの国々は中国と利害を争いつつ、しかも安定した関係を維持するという難しい選択を迫られています。しかし、外交はいつでも「右手で握手しながら、左手で殴り合う」のが常道でしょう。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事