2023-10-23

拓殖大学海外事情研究所所長・佐藤丙午「専守防衛をやるのであっても、やるなりの態勢を整えておく必要がある」

佐藤丙午 拓殖大学海外事情研究所所長・国際学部教授

憲法改正のポイントは「情報通信の秘密」



 ─ 日本の針路について伺います。岸田政権は防衛力強化の予算増額などで、5年間で総額43兆円と定めました。

 佐藤 43兆円というのは、今まで日本の防衛費が抑えられてきたことを考えると、評価できる動きではあると思います。

 ただ、そこには恐らく二つの問題があります。一つは、北朝鮮やロシア、中国など、日本周辺の環境を考えると、過去数十年間、本来整備しなければいけないものが、きちんと整備できていなかったということです。

 日本は緊張が高まる中で防衛費を削減するという、イレギュラーな政策をとってきたため、積み残しの課題が数多くあります。その積み残した課題を解決するために、5年で43兆円とも言われる防衛費の中から、ある程度割く必要があります。ただ、これは良かったと思います。

 ─ 今までなすべきことをやってこなかった反省も含めてですね。

 佐藤 ええ。しかしながら、もう一つは、43兆円の使い方を見ると、新しい兵器の開発など、様々な新しい提案がされています。軍事システムの再構築に使えるお金ができたことは良かったと思うんですが、逆にその資金があることによって、恐らく防衛産業の強化に問題が生じるのではないかということです。

 つまり、今までは予算が少ないが故に、それなりの効率化や最適化を図ってきたと思うんですが、そこに43兆円もの資金が入ってきたら、そんなことをする必要が無い。防衛費の調達が増えていくことが予想されると、防衛生産体制を大きく変革していく、というインセンティブが失われてしまいかねない。そこを懸念します。

 理想的な姿は、新しい兵器開発をとにかく積極的に進めることと、この後、生産能力と供給能力のバランスが崩れる時が出てくるので、輸出に依存する選択肢を可能な限り追求することです。特に国際的な市場開拓を、今のうちに進めておくことが極めて重要だと思います。

 ─ その場合、法整備は今のままでいいのか。法整備と同時に、ゆくゆくは憲法までいくのか。その辺はどう見ますか。

 佐藤 近年、あるいは直近では2023年には防衛装備移転三原則の運用指針の緩和を含めた、様々な提案がなされています。その見直し自体は、政治的制約の中で、可能な措置を追求すればいいと思います。

 ただ、輸出に関するノウハウの蓄積であるとか、輸出先国との関係強化というのは、相手国との包括的な関係を構築することが必要です。その条件が整った先に、長期的に安定した装備移転が可能になってくる。その部分には、早急に取り組まなければいけない。つまり、三原則の緩和というのがいいと思いますし、運用指針の改訂も重要ですが、日本の方針を変えたら世界から引き合いがくるような単純なものではない、ということを自覚することです。

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