2023-10-23

拓殖大学海外事情研究所所長・佐藤丙午「専守防衛をやるのであっても、やるなりの態勢を整えておく必要がある」

佐藤丙午 拓殖大学海外事情研究所所長・国際学部教授



 ─ もう一つ、憲法改正まで行くかという点についてはどう考えますか。

 佐藤 わたしは共同開発や生産などを含む防衛装備の生産体制や、装備移転をめぐる問題を考えていくと、憲法改正までいく必要はないと思います。

 しかし、現行の指針の中で解釈されるように、殺傷兵器を輸出してはいけないとか、いわゆる第三国移転の問題を考えると、今の憲法が大きな制約要因になっているという意見も確かに存在します。これは議論として成り立つ話ではありますが、わたしはその立場はとりません。

 むしろ、防衛技術開発等を考えると、憲法改正を議論する上で大きな問題なのが、9条だけではなくて、第21条の「通信の秘密」に関する問題だと思います。現在の防衛装備開発では、AI(人工知能)によるものを含め、データをどう活用するか、どう収集するかという点が重要になっています。さらに領域横断作戦では、情報収集や監視をどう効率的に行うかというのが、大きなポイントなんですね。

 つまり、各種データを政府側が自由にやりとりすることを可能にするような体制を作る必要があり、各国はこの問題に積極的に取り組んでいます。これは、専守防衛戦略とも関係があります。ウクライナ戦争を参考にすれば、例えば、敵対勢力の動きを民間の情報カメラなどが捉えていたとしても、今の法律では犯罪があるということが合理的に実証できない限りは、それを政府側が自由に活用することを裁判所は許可しないでしょう。

 ─ 緊急事態の時にカメラを使えない?

 佐藤 極端な例ではありますが、憲法改正して緊急事態における私権制限の規定が整備されないと、これまでの法解釈的には不安定さが残ります。

 ─ これは他の先進国は法整備をやっているんですか。

 佐藤 ほとんどの国がやっているとは言いませんが、情報通信の秘密と情報データの利用は、ガイドラインを作ったりしてやっています。そこは日本としては、憲法改正してまでも緊急にやらなくてはいけないことだと思います。防衛装備の技術開発の条件などを考えると、こちらの方の緊急性が高いのではないかと思います。

 わたしが思うのは、つくづく専守防衛というのは残酷な政策だということです。本土決戦をやる時にこんな国民を騙したような政策はないわけです。

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