2023-10-17

後手に回り続けた万博協会 政府・地元政財界それぞれの責任

夢洲の万博会場予定地。奥に見えるのが木造の大屋根(今年9月撮影)

開幕まで600日を切りながら、2025年大阪・関西万博の準備の遅れが危機的な状況だ。特に海外パビリオンの建設作業の遅れが目立ち、参加国と建設業者との契約交渉が停滞。運営主体の日本国際博覧会協会(万博協会)の対応が後手に回り続けてきたことが、現在の状況を招いていることは間違いない。ふがいない協会に対し、誘致から資金集めまで協力を続けてきた関西財界からは不満が噴出、政府も業を煮やし積極介入に動き出した。

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深刻化する海外パビリオン建設

「2年後、このあたりは世界のパビリオン、大屋根があり、空を見上げれば空飛ぶクルマも飛んでいる。そんな未来社会がここで実現される。日本政府館(日本館)を中心に、世界に対し日本の技術、目指すべき方向性、未来社会を発信していただきたい」─。大阪府知事の吉村洋文氏はこう言い切った。

 起工式が行われたテントの周囲は草地と湿地のような光景が広がり、パビリオンを想像させる建築物は見当たらない。部分的に姿を現している大屋根(1周約2キロ)の骨組みだけだ。日本館は万博のテーマを世界に発信し、各国のVIPをもてなす拠点となるが、建設工事では建設業者の決定が難航した。

 1月の入札公告時の予定価格は約67.5億円だったが、予定価格内での応札がなく不成立となり、発注元の国土交通省近畿地方整備局は「開幕に間に合わない」として随意契約に変更。結果、清水建設と当初の予定価格から約9億円増の約76.7億円で契約に至った。着工は6月中旬から約3カ月ずれ込んだ。

 8人のプロデューサーによるテーマ館も、こだわりのデザインによる施工の難しさ等がネックで入札の不成立が続いた。それでも、予定価格の引き上げやデザイン変更で8月までに全ての施設で建設業者が決定した。

 また、大阪府・市などの「大阪ヘルスケアパビリオン」は、特徴的な屋根を来場者の目に見える部分だけとするという設計の簡素化により、一部で「張りぼて」と揶揄されながらも建設費を抑え、建設を進めている。

 一方で深刻な状況となっているのが海外パビリオンだ。万博には153カ国・地域が参加。各国が施設を自前で建てる「タイプA」と万博協会が用意する施設を借りる「タイプB」「タイプC」の3種類がある。中でも60カ国が56館を建設する「タイプA」は建設業者との契約がほとんど進んでいない。

 万博協会が「苦肉の策」として提示したのが、協会がゼネコンに発注するプレハブ施設に参加国が装飾する「タイプX」と呼ばれる方式。建設業界の関係者は「タイプAのうち半数がXに移行しなければ、開幕には間に合わない」との認識を示す。

 ただ、趣向をこらした建物でメッセージを発信したいタイプA選択国からは不評を買った。協会は各国にタイプXを選択する場合、8月末までに返答するよう求めたが、意思を伝えない国も少なくなかった。関西財界のトップは「Xに移行するくらいなら、万博そのものへの参加を辞退するという国が出ても仕方がない」とあきらめ顔だ。

 万博協会は、タイプXへの移行について約10カ国が関心を示し、1カ国が正式に受け入れたと公表。アフリカのアンゴラが受け入れる方針であることも分かっている(9月22日時点)。

 協会は、建物本体の工事は2024年7月までに終えるとしていたが、困難な情勢だ。新型コロナの影響で前回ドバイ万博の開催が1年延期されたことによる準備期間の短さもあり、建設業界はこうした事態になることを危惧。昨秋以降、協会に繰り返し早期対応を求めていたが、協会は「参加国と建設業者間の話」として動かなかった。

 今年4月にパビリオン建設用地の引き渡しが始まると、次第に海外パビリオンの遅れが明確になる。焦った万博協会は来年4月からの建設業界の時間外労働の上限規制を万博関連工事に適用しないよう政府に打診。

 建設現場での人手不足が懸念される「2024年問題」に対応することで工事を後押しする狙いだったが、「過重労働を招く恐れがあり、『命』をテーマにする万博の理念に逆行している」などと批判を浴びた。加藤勝信厚生労働相も「単なる業務の繁忙では(除外は)認められない」と一蹴している。

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