2023-10-23

拓殖大学海外事情研究所所長・佐藤丙午「専守防衛をやるのであっても、やるなりの態勢を整えておく必要がある」

佐藤丙午 拓殖大学海外事情研究所所長・国際学部教授


専守防衛を維持し続けるのであれば…



 ─ それは相手が攻めて来てからやるのでは間に合わないということですね。

 佐藤 ええ。間に合わないし、仮に相手が攻めて来た時に、今回のウクライナを見ても自衛隊で全ての対応を任せるのは困難でしょう。嫌がる人も多いですが、専守防衛が成り立つためには「普通の国民」も戦いに協力する覚悟が必要になります。

 ウクライナが今回善戦している大きな理由に、スマートフォンなどの民間製品を通じたデータの活用があるんですね。また、民間人がある程度の軍事訓練を受けたり、軍事に関わる情報に接して、約30万人のサイバーアーミーがいると言われています。

 海外への民間人の情報発信も含めて、様々な工夫が行われています。これが国際世論を動かしました。それこそ武器弾薬の使用についても、大多数の日本人は銃など触ったこともないわけです。

 そうなると、敵が攻めてきた時にどうやって抵抗するの? というのは大きな問いかけになります。まさか竹槍で抵抗せよ、とはなりませんよね。つまり、専守防衛をやるのであっても、それなりの態勢を整えておかなければ、極めて危険なことになると思います。

 今回のウクライナ戦争を機に、そういう軍事教練をすべきだとまでは言いませんけど、専守防衛の怖さを国民に教えてこなかったのは、政府の大きな落ち度だと思います。

 あえて刺激的な言い方をすれば、普段から格闘術を含めた軍事的な訓練をやっておかないと、専守防衛は成り立たない。それが嫌で、しかし、専守防衛を維持し続けるのであれば、自衛隊の大規模化を考えるとか、それなりの対応を求めざるを得ないわけです。

 ─ これは国民の問題意識、国の在り方として、根本を問われているわけですね。

 佐藤 やはり、今回、われわれがウクライナ戦争で教訓にすべきことは、日本はこれまで平和憲法の名前の下で安心して、専守防衛のための準備を何もしてこなかったということ。今も「専守防衛」という言葉だけが叫ばれて、やっていることは、敵が攻めてきたら降伏して、民族や国家の存続を危機に晒すことを受け入れようと呼びかけているか、そうでなければ、実質的に、竹やりで戦えと言っているだけです。

 ─ その意味では、戦後77年、日本の防衛戦略は思考停止で、眠ったままだと。

 佐藤 仰る通りです。戦後77年、思考停止になるほど戦争が無かったというのは、極めて平和で素晴らしいことだと思います。しかし、ウクライナのあの惨状を目の当たりにしたら、現実には国連常任理事国であっても、相手に対して非人道的な軍事攻撃を整然と仕掛けて来る。

 そういう状況があるんだということを前提に、われわれはこの後の専守防衛を考えていかなくてはならない。ですから、本当に今のままでいいのか、それとも、態勢を変えていかなきゃいけないのか。真剣に議論すべき時に来ていると思います。

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