バングラデシュでの出来事で思うこと
欧米企業と日本企業の違いを、日覺氏も体験。東レはバングラデシュにも投資しているが、そこで感じたものは何か?
バングラデシュで5階建てのミシン工場が壊れた時、彼ら(欧米)は単にミシンを並べてガンガン操業していた。「安全への配慮が欠けている」と現地でも指摘された。
そのビル崩壊事故後、バングラデシュから逃げ出す欧米勢や中には日本企業もいた。その時、東レはどうしたのか?
「福利厚生はきちっとやっていたし、全く問題ないと。従業員の満足度も高いし、人も5000人近くいますしね。欧米勢は劣悪な環境だと逃げて、東レはまだ居るのかと言われましたけどね」
安全に投資せず、社員教育など人にも投資せずではESGやSDGsは成り立たない。バングラデシュから逃げ去った勢力はエチオピアなどへ向かったとされるが、そこで成功したという話は伝わって来ない。
そうした流れの中で、国連は2015年SDGsを制定。
「われわれ日本にとってみたら、皆そういうことを考えながら実践してきたんですよ。だから、彼らに何も言われる必要はないと思うんです」
「人」を大事にする経営を基本とする日本企業の生き方にもっと胸を張って、これからの経営に取り組んでいこうという日覺氏の訴えである。
「考えるのは人間」
「素材には社会を変える力がある」─。日覺氏の持論だ。
革新的なものを世の中に送り出す。そうやって素材が社会を変えていく。だから、素材が変わらないと社会は変わらないという日覺氏の思いである。
DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)と人との関係はどうあるべきか?
「DXにしろ、そうしたものをいかに使いこなして効率よくやるかということは大事。だけど、やっぱり基本的な原理原則は人間が考えなきゃいけないということだと思うんです」
炭素繊維にしろ、RO(逆浸透)膜にしろ、またナノアロイなど社会のあり方を根本的に変えるものを創り出せるのは「素材メーカーの仕事冥利です」と日覺氏は言う。
同時に、素材づくりは、「ポリマーとか焼成のものとか、現場のそういう技術の蓄積がないと前に進まない。そうした蓄積の上にブレイクスルーを起こして先へ進んでいく。それには時間がかかるし、そういう意味からすると、今の短期志向の経営の下ではできない」という認識。
着実、堅実に、そして何事も諦めずに物事に取り組むことが大事という日覺氏である。