深刻なエネルギー不足が続く日本。猛暑による電力需給ひっ迫を受け、全国で7年ぶりに節電要請が出された他、今冬の電力不足も迫っており、危機的な状況だ。そうした中、ここへ来て原子力の存在がクローズアップ。今年4月にエネルギー政策に関する提言をまとめた経団連は、原発再稼働の推進を主張。十倉氏は「エネルギー政策は、短期的・中長期的な視点に加え、エネルギー・トランジション(実効ある炭素中立への移行)も考えていくべき」と語る─。
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NATO事務総長のダボス会議での発言
─ コロナ禍が長期化し、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で世界経済が混乱しています。こうした状況下で、日本の立ち位置をどのように考えていますか。
十倉 もともと、コロナ禍の前から地政学リスクは高まっていました。そこにコロナですから、当然のことながら、国際経済秩序は非常に不安定になっています。最近のキーワードで言うと、「ライク・マインデッド・カントリーズ(同志国)」や「フレンド・ショアリング(サプライチェーン=供給網を同盟国内に収める)」という言葉が飛び交っています。
わたしは、NATO(北大西洋条約機構)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長が今年5月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で言った「自由は自由貿易よりも貴い」という言葉が、今の国際情勢の状況をうまく言い当てていると思っています。
─ この言葉には深い意味がありますね。
十倉 ええ。われわれ経済人は、自由貿易というのは何事にも代えがたいという考えがあって、米トランプ大統領の時代に保護主義が台頭し、G7(主要7カ国)でも自由貿易の維持で騒ぎになってしまいました。ところが今は、自由貿易に代えて自由で開かれた国際経済秩序が大事だと言っています。
つまり、経済も大事だけれども、もっと基本的な「自由」という価値観が大事で、経済もそこから無縁ではあり得ない。こうした考えが、最近の流れになっていると思います。ストルテンベルグ事務総長の「自由は自由貿易よりも貴い」という言葉が印象に残っているのは、そういう理由からなんです。
─ 経済安全保障を考える上では、先ほどの「ライク・マインデッド・カントリーズ」や「フレンド・ショアリング」という言葉もよく耳にするようになりました。
十倉 何でもかんでも自由に取り引きできるのではなく、経済安全保障のルール上、機微な技術に該当するものは、自由、民主主義、法の支配、人権といった価値観を共有する「ライク・マインデッド・カントリーズ」の中でサプライチェーンを組もうとしています。
ただ、そうした流れが行き過ぎれば、国際的なサプライチェーンを分断するブロック経済につながる恐れもあり、それは違うのではないかと思っています。
少なくとも、何でも自由貿易、自由経済にはできない。ある分野に限っては、経済安全保障のルールの下で取り引きしなければならないことを、われわれ経済人や産業界は認識しなければならないと思います。