2022-09-02

【エネルギー問題を考える】経団連・十倉雅和会長「原子力は安全を確保し、住民の理解を得て、再稼働を進めるべき」

十倉雅和・経団連会長



社会性の視座をもって…


 ─ 十倉さんが経団連会長に就任して1年余が経ったわけですが、改めて、経団連の使命や役割は何だと考えますか。

 十倉 わたしが昨年、会長に就任した際、「社会性の視座をもってやろうよ」ということを言いました。違うご意見の方もいらっしゃると思いましたが、おかげさまで、経団連の多くの皆さんに、ご賛同、ご理解をいただいていると感じています。

 また、宇沢弘文先生の『社会的共通資本』(すべての人びとが、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力のある社会の安定的な維持を可能にする自然環境や社会的装置のこと)という概念もご紹介したところ、同様に、多くの人から共感の声をいただきました。

 ─ 社会との連帯感が薄れている時代だからこそ響く言葉かもしれませんね。

 十倉 もう一つご紹介したのが、カール・ポランニーというハンガリーの経済学者の言葉で、彼は「市場が社会から切り離されるとき、全ては市場の要求に隷属する」と言っています。

 これは、先ほど申し上げた経済安保の議論にも似ていて、社会はどうあるべきか、もっとも大事な価値観は何か、そういった視点から経済も無縁ではいられないということだと思います。

 言うまでもないことですが、資本主義や市場経済は、自由で活発な競争環境、効率的な資源配分、イノベーションの創出等を実現する、わが国の社会経済活動の大前提です。しかしながら、社会性の視座から離れてしまうと、それこそ政府の「新しい資本主義」や経団連の「サステイナブルな資本主義」で指摘しているように、行き過ぎた株主資本主義、市場原理主義により、格差の拡大や生態系の崩壊などの弊害が出てきてしまうのだと考えます。

 そして、こうした行き過ぎた資本主義を通じてもたらされた弊害を克服できるのもまた資本主義です。そういう意味で、岸田総理の掲げる「新しい資本主義」というのは、良いネーミングだと思います。

 ─ その意味では、経団連と政府が目指す方向性は一致していると言っていいですか。

 十倉 その通りです。岸田首相の着眼点とわれわれとコンセプトは一致しています。近年「マルチステークホルダー」とか「エシカル・キャピタリズム(倫理的資本主義)」など、いろいろな言葉が出ていますが、経済合理性や経済効率だけでなく、社会を念頭に置く必要があります。

失敗しても主体的に挑戦する人を応援する社会に


 ─ 日本は失われた30年と言われ、長く経済が低迷しています。この失われた30年をどう取り戻していくか。改めて、経団連会長としての決意を聞かせてください。

 十倉 先ほども申し上げた通り、資本主義や市場経済は、資金や人材が成長する分野に効率的に資源配分される素晴らしい制度です。しかしながら、日本では、こうした点がうまくいっていない、つまりは、労働の流動性が十分ではないところがあると思います。

 以前でしたら、終身雇用、雇用の安定は、日本の強みでした。しかしながら、これだけ新しい科学技術や産業が次々と登場し、社会が目まぐるしく変化する中にあって、労働の流動性を高め、人々が自由に挑戦し、主体性を発揮する個人をもっと応援していかなければなりません。これはスタートアップの振興にもつながります。

 ─ 多様性ある価値観、多様性のある社会ですね。

 十倉 日本は同質性の高い社会で、わたしはよく言うんですが、小学校の低学年の頃は皆、授業で、我先に手を挙げて自分の意見を積極的にアピールしていましたよね。それが高学年になると手を挙げなくなる。そういう風土を改めていく必要があると感じています。

 欧米では、いろいろな人種や文化を背景にもった人たちが流入していますから、彼らと切磋琢磨していくには、自分の主張ははっきり言い、その上で、相手の言うことも聞かなければなりません。日本も国際社会の中で生きていくには、学校教育でもそうしたことが求められると思います。

 例えば、海外で一度もまれる経験をすることで、主体性が発揮できたり、自分の個性を追い求める人が出てきたりすると思います。残念ながら、今の日本は、七転び八起きではなく、一転びゼロ起きです。

 いきなり日本が変わるのは難しいかもしれませんが、ファーストペンギン、グッドルーザーという言葉があるように、主体的に我先に自分が挑戦する人を応援し、失敗しても、また次の挑戦を再び応援する。そういう社会にしていけるよう、できることから取り組んでいく必要があると思います。

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