2022-09-02

【エネルギー問題を考える】経団連・十倉雅和会長「原子力は安全を確保し、住民の理解を得て、再稼働を進めるべき」

十倉雅和・経団連会長



原発の新増設やリプレースが必要


 ─ 日本のように資源に恵まれない国というのは、多層的なエネルギー供給構造を実現することが大事ですね。

 十倉 第6次エネルギー基本計画では、2030年度の電源構成として、再エネを最大限導入した上で、電源の20~22%は原子力で構成するとしています。そのためには、2030年度には、27基の原発が再稼働している必要があります。

 ─ だいたい原発1基で1%分と考えていいですか。

 十倉 将来の日本の電力需要は大幅に増えると言われていますが、現在の電力需要水準では、おおよそ仰る通りです。いずれにしても、現在、日本には建設中のプラントを含めて36基の原子力発電所がありますが、再稼働までこぎつけられた原発は10基しかありません。

 先日、今冬の電力需給がひっ迫することが懸念されることから、岸田総理のご英断により、この冬、最大9基の原発の稼働を進める考えが表明されました。一方で、2030年というのは、あと8年しかありません。27基の稼働を考えますと、まだ十分でないことは明らかです。

 もっと言えば、2050年に原発の電源構成を20%にするには、データセンターの活用も含め、デジタル化により、消費電力量が飛躍的に増えることを踏まえると、原発は約40基必要になります。

 ─ この辺のバランスは大事な指摘ですね。短期的な視点と、長期的な視点と。

 十倉 また、現行の法律では、原発の運転期間は、原則40年、最長60年となっています。仮に現在の原発を全て60年運転していいということになっても、計算上、2050年に稼働できる原発は23基です。それが10年経って、2060年になると、たったの8基しか残らない計算になります。したがって、そもそも、運転期間を60年まで延長することは避けられず、こういうことが目に見えていますから、経団連として原発の再稼働はもとより、新増設やリプレース(建て替え)が必要と主張しているわけです。

 ─ いま止めている原発を動かすだけでは足りないと。

 十倉 ええ。今から始めないと間に合いません。申し上げるまでもなく、2030年、2050年が近づいて、すぐにできる話ではありませんから。

 ─ 最近では、従来の原発より出力が小さい「小型モジュール炉(SMR)」が注目を集めていますね。

 十倉 安全性を考えた、こうした次世代技術の開発を積極的に進めるべきだと思います。

 原子力には安全性の他に、もう一つ、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の問題があります。放射性廃棄物の減容化や、有害度低減を効果的に進めるためには、高速炉を中心とする核燃料サイクルの確立が必要です。高速炉は、冷却材に水ではなく、液体ナトリウムを使います。

 そして、高速の中性子によってプルトニウムを燃料として活用するとともに、燃えにくいウランや半減期の長い核分裂生成物も燃焼させるため、高レベル放射性廃棄物を減容化させるとともに、有害度を大きく低減させるため、核燃料サイクルの効果を高めると言われています。

 日本は高速増殖炉「もんじゅ」を保有していましたが、トラブルが相次ぎ、廃炉を決定しています。研究開発は後ろ倒しになっていますが、アメリカとの国際協力が進められるなど、われわれも開発加速に期待しているところです。

エネルギーの移行期に既存の原発は必要


 ─ ここでも、米国との協力は不可欠になってきますね。

 十倉 ええ。もう一つ重要な革新炉として高温ガス炉があります。高温ガス炉では冷却材に水よりも高温の熱を伝えられるヘリウムガスを使います。高温ガス炉により、高効率のガスタービン発電と、1千度近い熱を利用した水素製造を同時に行おうとする取り組みが進められています。

 この水素製造の技術開発では、2050年に、1ノルマル立方メートル当たり約12円のコストを目指すとしています。今、必死で、グリーン水素(再エネ由来でつくった水素)の開発も進めていますが、相当低コストの再エネ電力等を前提とした試算でも、ようやく20円を切れるかどうかという水準で四苦八苦しています。

 こうしたなか、日本で一けた台の低コストで水素を製造できる技術として、高温ガス炉が有力視されています。

 ─ 水素製造の切り札になりうるんだと。

 十倉 はい。こういうことを考えると、高温ガス炉の開発も必要だし、高速炉の開発も、SMRの開発も必要だということになりますが、現状、開発の優先順位や時間軸についての議論が十分になされていないのではないかなと感じています。

 つまり、原子力をめぐっては、安全性に対する信頼の問題と高レベル放射性廃棄物の問題があるため、より安全で革新的な炉型の開発が求められている。この点、わたしは核融合も、わが国こそ積極的に取り組み、将来実現すべき有望な選択肢であると考えています。

 ─ なぜ、核融合ですか。

 十倉 核分裂反応に比べて安全性が高いからです。

 核融合は、資源の枯渇の恐れがない他、発電時に高レベル放射性廃棄物を発生しないエネルギー源です。また、核分裂反応ではないため、出てくる放射性物質もものすごく少ないし、相対的な安全性が極めて高い技術です。

 そうは言っても、核融合の技術開発は未だ途上であり、早いケースでは2040年までには確立できると言われています。しかし、現実的には2050年に商業運転ベースの生産設備がどんどん動いている絵姿を前提にするのは難しいようにも思います。

 そう考えたら、核融合が本格的に社会実装されるまでのトランジションの期間は、原子力の技術を活用していかないといけない。原子力の利活用は中国やロシア、フランス等も積極的です。日本も科学的、論理的、定量的、客観的な議論をして、国民の理解も得て、取り組みを推進していく必要があります。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事