2024-03-12

大和総研副理事長・熊谷亮丸「日本は課題先進国。課題があるからこそ成長の余地がある」

熊谷亮丸・大和総研副理事長




世界に目を開いて現状を変革する意志を

 ─ 日本の持つ潜在力をどう考えますか。

 熊谷 強みと弱みがあります。

 強みで言うと、まず何と言っても社会が安定していることです。元々、人を大事にし、共存共栄の思想、自然と共生する精神があります。治安がよく、遵法意識も高い。格差や国民の健康問題も諸外国と比べれば限定的です。異文化にも寛容で、海外の文化を受け入れるフレキシブルな面もあります。

 次に課題先進国であるという点です。日本は先進国の中で最も早く少子高齢化が進みましたが、今後中国を含め、アジアの国々がどんどん老いてきます。ですから日本がフロントランナーとして、少子化を克服できるような社会モデルを構築できれば、アジアの国などに輸出していくことができます。

 ユーザーの要求水準も高い。日本人は勤勉、繊細で感性が鋭いことから、世界一のサービス、品質を生んでいる部分があり、諸外国の企業から見ても、日本で通用すれば世界で通用するというブランドになっている。

 モノづくりの伝統があることも強みです。これはよく言われるように「IoT(モノのインターネット)」の世界に移行した際に一定の強みを発揮します。

 文化的な側面では、ミシュランガイドなどで見ても、東京はおそらく世界一の美食都市だという評価がありますし、伝統芸能や芸術、礼節を重視している。

 さらに、功罪両面がありますが、長寿企業が多い。新陳代謝が働いていないということでもありますが、今の世の中、サステナビリティ(持続可能性)が大きな価値になっている面も見逃してはいけません。

 ─ 逆に課題というと、どういうことが考えられますか。

 熊谷 例えば行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義といった硬直的で柔軟性が低い部分が社会全体としてあります。

 ダイバーシティも欠如しています。もっと外国の高度人材を受け入れていかないといけない。どうしても日本企業は横並び、総花主義で、水平分業をせずに自前でやろうとしてしまう傾向があります。効率が悪いですし、ダイバーシティがないから画期的なイノベーションが起きにくい社会構造になっています。

 リスクを極端に避ける国民性があり、スピード感が欠如している点も問題です。具体的には、社会全体が無謬性に過度に執着しており、減点主義の人事システムが定着しています。

 強烈なリーダーシップを嫌う、ある意味で嫉妬深い国民性も改めなくてはいけません。目立つ人が出てくると、寄ってたかって引きずり下ろす面があります。エリート教育が十分に行われておらず、悪しき平等主義が蔓延しているように感じます。

 このように、日本にはいい面も悪い面もありますが、悪い面はできるだけ抑えて、いい面を伸ばしていくことが肝要です。

 ─ 課題を克服すれば、日本にはまだ成長する余地があるということですね。

 熊谷 そうですね。課題が多いということは、潜在的な成長余地があるということを意味します。日本はいい面があるのに、それを活かし切れていません。そして、まだ国民にも危機感がないので、ジリジリと状況が悪化しているというのが現状です。

 元々、日本には先程申し上げた様な強みも沢山あります。政治がリーダーシップを取り、国民1人ひとりが当事者意識を持ってしっかりと理性的な判断を重ねて行けば、まだまだ成長できますし、ターンアラウンド(好転)が可能になると思います。

 企業経営者はもっと世界に目を開いて、世界の標準、大きな流れを踏まえた上で、現状を変革するという強固な意志を持つ必要があります。

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