2024-03-12

大和総研副理事長・熊谷亮丸「日本は課題先進国。課題があるからこそ成長の余地がある」

熊谷亮丸・大和総研副理事長




「コストカット型経済」から30年ぶりの転換なるか

 ─ 日本企業は業種を問わず「値上げ」を課題としてきました。現状をどう見ますか。

 熊谷 業種ごとに跛行性があり、まだ完全ではありませんが、一時期と比べれば、値上げに関する企業のスタンス、それに対する国民の反応も変わってきています。完全に浸透したとまでは言えませんが、潮目が変わってきているとは思います。

 公共サービスや保険サービス、外食といった価格改定の頻度が低い「粘着価格」は、日本がデフレに入った1990年代前半から一貫して上がっていませんでしたが、足元では3%程度上がってきているんです。

 定性的に見てもデフレ脱却の蓋然性はかなり高まっています。実際、足元は約40年ぶりの高インフレですし、資産バブルの時に迫るくらいの労働需給の逼迫が生じている。

 また、コロナ禍からの正常化、家計の過剰貯蓄もあり、サービス消費は約3兆円増える余地があります。加えて、価格転嫁に消極的な企業に対して、政府が公正取引委員会も使って企業名を公表しています。

 その意味で「コストカット型」の経済から、30年ぶりに転換する兆しがかなり出ています。

 ─ 経済の潮目が変わる中、企業は何を意識して活動すべきだと?

 熊谷 グローバルに見て、インフレ的な方向に来ていることを意識して企業経営を行う必要があると思います。経済の長期サイクルで見ても、おそらく2020年前後にグローバルな経済のサイクルがボトムを打って、そこからインフレ的な方向に入ってきています。

 今までは、物価は上がらないという、ある種の「ノルム」(社会的な習慣や規範意識)がありましたが、それが徐々に崩れる可能性が出てきているんです。

 日本銀行のスタンスを見ても、それを感じます。まだ確証が持てていないことから、金融政策を完全に変更するには至っていませんが、24年4月頃、春闘における賃上げがしっかりしているのを見極めた段階で、金融政策を徐々に正常化してくる可能性が高いと思います。

 こうした状況を考えても、これまでのデフレ下の縮小均衡型のノルムに縛られることなく、原材料価格や人件費が上がれば売り値に転嫁するという、拡大均衡型のスタンスで企業経営を行っていく必要があります。

 ─ 個人は足元では物価高に賃上げが追いつかない状況が続いています。

 熊谷 家計部門もインフレ的な方向に備える必要があります。大きな流れとして国が「貯蓄から投資へ」を推進していますし、24年から「新NISA(少額投資非課税制度)」も始まります。

 デフレ下では、現金の実質的な価値が上がっていく傾向がありましたが、インフレ下では投資に振り向ける必要があります。それも日本だけでなく様々な地域に、また投資対象についても株式、債券など様々なアセットに分散投資をすることが重要になります。

 さらに時間分散、積立が肝要です。価格がいつ上がるか、下がるかはプロでもわからない話ですから、ドルコスト平均法(価格が変動する金融商品を定期的に定額で積み立てる手法)で投資することで、長い目で見ると最も時間分散ができて、リスクを低下させることができます。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事