2023-11-30

富国生命・米山好映の原点回帰論「最大たらんよりは最優たれ」

米山好映・富国生命保険社長

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銀行・証券業務と資産運用業務は違う!

 それらの動きを、中堅生保・富国生命の米山氏はどう見ていたのか?

 米山氏は1950年(昭和25年)生まれ。1974年(昭和49年)の入社後は資産運用畑を歩み、総合企画室などを担当。2002年(平成14年)取締役総合企画室長、05年常務、09年取締役常務執行役員を経て、10年(平成22年)社長就任という足取り。

 米山氏は2001年、取締役に就任する前年、某雑誌に「証券や銀行とアセットマネジメントは全く別物」という趣旨の文章を寄稿。

 アセットマネジメント(資産運用)─。資産を株式や債券、その他の金融商品に投資し、利子や配当などのリターンを得る仕事は、銀行や証券業務とは本質的に違うということ。

 米山氏は、銀行の子会社や証券の子会社として〝投信子会社〟が登場したことに関連して、「そこに銀行員や証券会社の人間が天下りみたいに社長になってやっているのはおかしい」と〝日本版ビッグバン〟の課題を率直に取り上げている。

 この問題提起は20年前のことだが、昨今、金融庁がこの問題を取り上げるようになっている。『貯蓄から投資へ』を〝新NISA構想〟で進めようとする金融庁もこうした問題提起に真剣に取り組み始めたということ。

「それぞれの仕事や職業には、それぞれのエートスがあると思うんですよ」と米山氏。

 エートス(ethos、職業的倫理観・思潮)。米山氏は〝エートス〟という言葉を使って、それぞれの職業の倫理観、使命について次のように語る。

「それぞれの職業に使命、カルチャーがあるのだと。生命保険だったら生命保険のカルチャーがあります。そういうことを無視して、銀行なり、証券が互いに参入する。それは、業務の知識を身につければ、銀行員というのは割と識見がある人たちなので、証券業務の知識ぐらいはすぐ身につける。しかし、エートスが元々違うじゃないかと」

 米山氏が続ける。

「このアセットマネジメントがまさに今言った問題で、子会社を作り、そこに銀行の人がトップで行く。全く同じ構造です。これをやっている限り、グローバル競争で勝てるようなものは出てこないと思うんですよね」

 では、生命保険会社の使命と本質とは何か─。


生保の本質とは何か?

「われわれ生命保険会社には2つの仕事があります。生保の営業、そしてお預かりした保険料の資産運用をやっていくという仕事。これはわれわれにとって本当に本質的な問題なんです。わたしたちは、車の両輪と言っています。だから、生命保険会社がアセットマネジメントをやる。当社では投資顧問会社をつくり、そこのトップには債券運用をやっていた者が就いていますが、これは極めてリーズナブルな筋道だと思うんですよね」

 日本の金融界は〝失われた30年〟の流れの中で、変革を余儀なくされてきた。前述の〝日本版ビッグバン〟もさることながら、前後してアジア通貨危機(1997)が起き、2008年には世界的金融危機のリーマン・ショックが起き、グローバル世界を揺るがした。

 そうした危機をくぐり抜けるためにも、経営体質の変革・強化が不可欠ということで、金融再編が進められた。銀行や証券がその他の分野に進出、証券が一部銀行業務に参入するという動きは、そうした流れの中で起きていった。

 何より、世界的な通貨・金融危機と国内の金融危機や経営破綻劇が連動し、危機が拡大されたという事実。

 それだけに、事実の本質や使命をしっかり把握し、それを自分たちの業務に落とし込まねばという米山氏の問題意識。

「銀行や証券会社の業務はブローカー、だから売買のプロなんです。銀行というのはまさに金貸しのプロです。ただ、そのことで直ちにアセットマネジメントができるというわけではないんですよね」と米山氏。

 生保は、互いに助け合う相互扶助の精神からスタートしている。ゆえに、『相互会社』という組織形態を取る。

 しかし、時代の変化を受け、また金融改革の中で、相互会社から株式会社制に移行するところも出現。例えば、第一生命ホールディングスや太陽生命、大同生命を傘下に持つT&Dホールディングスなどに事業形態変革の例がある。しかし、富国生命は『相互会社』にこだわり続ける。

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