2023-10-19

「強い『個』の育成」を進める 三井物産の人的資本戦略

毎年、ハーバード大学で開催しているグローバルリーダーの育成を目的とした研修。今年8月には堀健一社長が講師をつとめた

挑戦を続けられる環境が必要!


「自分にも後輩がつくようになり、更なるリーダーシップを発揮するために、新しいポジションで、今まで以上に覚悟と責任感を持って仕事をしたいと思った。管理職になったことで、経営者目線も意識し、より広い視野で仕事に取り組めるようになったと思う」

 こう語るのは、三井物産リテールトレーディング、輸入物流チームリーダーの林美穂氏。

 林氏は30代で、入社より鉄鋼製品本部、人事総務部、海外研修員、流通事業本部と様々な部署を経験。こうした経験を活かして、更なるキャリアアップを図ろうと考えていた林氏が活用したのが、三井物産の『キャリアチャレンジ制度』。2年前、入社年次や年齢に関係なく、能力や意欲のある社員の成長を促したいという目的で創設された制度だ。

 通常、課長や部長などの責任あるポジションにつくには、誰しも様々な経験が必要で、一定の年数を要するもの。しかし、同制度は本人に意欲があれば、希望するポジションに挑戦できる。同制度の参加者の平均年齢は31.5歳。〝M2(室長クラス)〟というポジションから〝M1(部長クラス)〟への挑戦など、いろいろな段階のチャレンジがあるが、若手が〝M3(チームリーダー的な位置づけ)〟と呼ばれる管理職へ挑戦する社員が多いという。

 同制度を利用し、日本のみならず、米国・欧州・中東・南米など、世界中の関係会社で社長を含む重要なポジションに若手社員がチャレンジしており、中には入社5年目の29歳で、三井物産最年少で関係会社の社長になった社員もいる。

「複雑化する世の中で、最初から正解を導き出すことが難しくなっている。それでも当社は挑戦を続けられる環境が必要だと考えていて、時には上手くいかないこともあるが、失敗から学ぶことで自らを鍛え、次のチャレンジにつなげられることを重視している。そのような会社の環境や制度を整えるのは会社の人材マネジメントにおいて大切なテーマ」(三井物産専務執行役員人事総務部長の平林義規氏)

 三井物産がこうした若手登用制度を導入したのは、近年、商社のビジネスが大きく変化してきたことが背景にある。

 特に資源ビジネスのように商社が手掛ける個々の案件規模が巨大化してくると、どうしても事業の判断をするのは部長、本部長クラスになり、若手は断片的な仕事しか担当できなくなる。ここに挑戦意欲の旺盛な若手から不満が出たとしてもおかしくはない。会社側はそうした齟齬が生まれないよう、バランスを考えて、若い人が失敗を恐れずにチャレンジする風土をつくっていく必要がある。

 平林氏も「もっと優秀で多様なタレントが、グローバルな土俵に上がって活躍し、切磋琢磨してもらわないといけないという強い危機感を持っている。日本国内では良い採用をさせていただいているが、本当にグローバルでさらに付加価値の高い仕事をしていくと言った場合にはまだ十分ではない」と指摘。

 若者にどう活躍の場を与えるかという課題認識だ。

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