2023-10-16

【サントリー】ウイスキーづくり100年 麦芽や酵母による自然の営みを見つめ直す〝熟成ビジネス〟

リニューアルした「サントリー白州蒸溜所」内にある「ビジターセンター」

依然として原酒不足が続くウイスキー業界。ただ、国内外でジャパニーズウイスキーの評価は高い。そんな中、サントリーがウイスキーの主力工場である「白州蒸溜所」をリニューアル。5%程度というビール類の利益率に比べても、2ケタの利益率を誇るウイスキーは時間と手間暇がかかる。いかに価値を高めるか。事業の多角化が広がる中で本業を磨き上げる同社のウイスキーづくりの神髄とは?

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リニューアルする2つの狙い

 東京から電車で約2時間。JR中央本線の小淵沢駅から車で15分ほどの森の中に、溶け込むようにして佇むのがサントリーの「白州蒸溜所」。同蒸溜所では主力ウイスキーである「響」に使われる原酒のほか、「白州」などを製造している。南アルプス甲斐駒ケ岳の麓に広がる広大な自然に囲まれた場所にあり、まさに〝森の蒸溜所〟だ。

 そんな白州蒸溜所は1973年の稼働開始から今年で50年を迎える。実は2023年はサントリーにとっては節目の年。創業者・鳥井信治郎氏が山崎(大阪府三島郡島本町)の地でウイスキーづくりを始めて100年に当たり、ビール参入から60年でもある。そこでサントリーは両蒸溜所に計100億円を投資し、リニューアルを実施する。

「ものづくりの現場を見てもらい、ストーリーを通じて当社の製品の価値を知ってもらいたい」─。こう力を込めるのはサントリー常務執行役員原酒開発生産本部長の栗原勝範氏だ。

 白州蒸溜所のリニューアルは2期に分かれる。1期が9月に完成したギフトショップの「ビジターセンター」とサントリーのウイスキーを有料で楽しめる「テイスティングラウンジ」だ。そして2期が約50種の生息する野鳥を観察できる「バードブリッジ」とウイスキー博物館の隣に建設されるレストラン「フォレストテラス」。24年以降、順次完成していく予定だ。

 今回のリニューアルは大きく分けて2つの狙いがある。1つは消費者にサントリーのものづくりを伝えることだ。リニューアルを機に見学ツアーの内容を刷新。蒸溜棟のほか、これまで一般公開されていなかった製造設備などの見学が行える。また、テイスティングも体験可能だ。

 工場見学コースには、プロジェクションマッピングを使ったユニークな展示品や発酵中の木桶の中を見て原酒の匂いを確かめることなどができるため、「ウイスキーづくりを五感で感じる」(関係者)ことができる。

 そしてもう1つが商品づくりをさらに磨き上げるということだ。中でも原料の麦芽とアルコール発酵に必要な酵母の一部を自社製造する点が注目される。これまで同社はこれらの全量を外部調達していたが、「原料づくりに関与することで自然の恵みを引き出すと共に技術向上を図る」(白州蒸溜所工場長の有田哲也氏)という狙いがある。

 具体的には、大麦を床に撒いて発芽させて麦芽をつくる伝統的な製法でもある「フロアモルティング」を導入。また、酵母の培養条件を制御するなど、より安定的で高品質なウイスキーづくりのための培養プロセスも導入する。自社製造に切り替えることで手間暇がかかることになるが、開発段階でウイスキーの品質を上げることができる。

 そもそもウイスキーは大きく2つの種類に大別される。「シングルモルトウイスキー」は大麦麦芽を使用したウイスキーを単一の蒸溜所で造られたものを指し、「ブレンデッドウイスキー」とは30~40種類のモルト原酒などをブレンダーによってブレンドしたウイスキーを指す。サントリーで言えば、前者が「山崎」や「白州」、後者が「響」だ。

 ウイスキーはビールなどと違い、いくつもの原酒をブレンドして商品にする。これまでの外部調達に加え、自製する麦芽が加われば新たな原酒を生み出すことにつながる。仕込み、蒸溜、熟成という工程に原料調達という新たな要素が付加価値になれば同社の商品の価値も高まる。

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