2023-09-15

【政界】マイナカードで支持率は続落する中 岸田首相の『淡々としたやる気』

イラスト・山田紳

岸田内閣の苦悩が続いている。内閣支持率が続落する中、首相・岸田文雄はマイナンバーカード問題などへの対応に奔走しており、秋に衆院解散に踏み切れるかどうかも急速に不透明感を増した。「ポスト岸田」への動きは乏しいものの、国民の信頼回復には、肝心の経済再生に向けた政策立案と実行が欠かせない。岸田は政権再浮揚に向けた正念場を迎えている。

【政界】勢いづく日本維新の会 野党第一党を狙うが失速の懸念も

「悪いトレンドに」

「何が起こっても全て自民党が悪い、岸田政権が悪いというトレンドに入っている。衆院解散はかなり厳しくなっているのではないか」─。日本維新の会代表の馬場伸幸が8月14日のBS11番組収録で示した観測は、永田町の直近の空気を表していた。

 洋上風力発電を巡る企業からの資金提供問題で、衆院議員会館にある元外務政務官・秋本真利の事務所を東京地検特捜部が捜索したのが8月4日。秋本は自民を離党したが、またも「政治とカネ」が政権を直撃した格好だ。7月末には、自民党女性局によるフランス研修の際、参院議員・松川るいらが「エッフェル塔」のポーズで撮った写真が、「社員旅行か」「浮かれすぎだ」と猛反発を招いた。

 不始末続きの中、内閣支持率も続落している。8月14日発表のNHK世論調査では、前月比5ポイント減の33%と、岸田政権では最低水準に落ち込んだ(不支持率は4ポイント増の45%)。他社の調査もトレンドはほぼ同じで、支持率が2割台に下落した調査結果もある。

 5月のG7広島サミットによる政権浮揚効果を受け、6月に衆院解散の可能性が真剣に取り沙汰された頃の高揚が、まるでウソのような低空飛行である。「遅くとも秋には解散があるはず」という当時からの既定路線も、かなり怪しい雲行きになってきた。自民党からも「今年の解散は無理ではないか」との声が上がり始めている。まさに政治の一寸先は闇だ。

 支持率低迷の「主犯」としてやり玉に挙がるのは、相変わらずマイナンバーカードである。昨秋、デジタル相・河野太郎が「2024年秋に健康保険証を廃止してマイナカードに一本化する」と表明した際、これほど祟りのようにつきまとう問題になるとは、首相官邸も予想していなかっただろう。当時の世論調査では賛否が拮抗していたが、今は保険証廃止の延期・撤回論が多数派になった。

 日本のデジタル化の遅れが、国民の利便性向上や行政・企業活動の効率化を妨げているという危機意識が、マイナ政策の根底にある。ただ、マイナカードを急速に普及させようと、病院通いに不可欠な保険証の機能を持たせ、ポイント付与を大盤振る舞いした結果、マイナカードは国民に身近な存在になってきた。その分、不備が起きれば反発も大きくなるのは当然の成り行きとも言える。


11月末の意味は?

 状況を重く見て、保険証廃止の延期に一時傾いた岸田に対して、マイナ推進派の河野だけでなく厚生労働省も反対した。

 政権の再浮揚を期そうとした8月4日の記者会見で、岸田が発表できたのは、既存の保険証の代わりとなる「資格確認書」の有効期限延長などにとどまった。保険証の廃止時期は当面維持され、これまでの取り組みに「瑕疵はなかった」と訴える岸田はいかにも苦しげだった。

 その4日後、岸田はさらりと重要な発言をしている。マイナンバーのひも付けに関する総点検の中間報告が発表された日のことだ。

「11月末までに(マイナンバーの)個別データの点検を実施してください」。この日開かれた政府の総点検本部で、岸田は河野らにそう指示した。6月に総点検実施を表明して以降、「秋まで」とぼかしてきた完了時期を初めて明言したのだ。

 秋の臨時国会の日程は、9月下旬から12月上旬くらいの幅で検討されることが多い。しかし、11月末まで総点検が続けば、衆院解散の判断も制約されかねない。総点検の完了前に解散すれば「マイナンバー問題を置き去りにした」、点検結果を発表した後であれば「政権がこれだけミスを起こした」と、いずれも野党に争点化の材料を与えてしまう可能性がある。立憲民主党は保険証廃止の延期法案を臨時国会に提出し、追及を強める構えだ。

 結果論になるが、6月に解散に踏み切らなかったのは「大義がない」(自民党幹部)こと以上に、岸田の好判断だった。7月23日説もあった投開票日をマイナンバー問題が直撃し、与党は思わぬ苦戦を強いられていたかもしれない。

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