2023-09-15

【政界】マイナカードで支持率は続落する中 岸田首相の『淡々としたやる気』

イラスト・山田紳



危機管理が不可欠

 結局、岸田は通常国会を延長せず、6月21日に閉会させた。本来なら、そこから秋までは政権批判の熱を冷ます期間としたかったはずだ。

 17年、森友・加計学園問題に苦しんだ安倍政権は、通常国会後の7~9月の間に支持率をある程度回復させてから、秋の衆院解散に踏み切っている。野党が国会審議という追及の場を失い、新たな批判材料が出てこなくなったことが大きかった。ところが今回は、国会閉会後もマイナンバーのトラブルが絶えず、支持率も回復に至っていない。

 新たな火種が生まれそうな予兆もある。中小企業の社員や家族らが入る全国健康保険協会(協会けんぽ)が、加入者の1%にあたる約40万人について、「マイナンバーと公的医療保険情報のひも付けができていない」と明らかにした。加入者が協会けんぽにマイナンバーを通知していないことが要因で、マイナ保険証で病院を受診できない状態になっていたという。

 総点検の中間報告では、マイナ保険証に他人の情報がひも付けられたケースが累計8000件あまりだった。協会けんぽの件は事情が異なるが、規模のケタが違う。

 そもそも、マイナンバーは国民の様々な情報とひも付いている。何が起きても「政権が悪い」と言われるような泥沼にはまらないためにも、岸田のリーダーシップと危機管理が問われる局面だ。

 国際会議が多数セットされる秋の外交シーズンが本格化すれば、「G7広島サミットのような支持率回復につながる」との期待感が政府内にはある。ただし、日本開催のサミットは別格であり、秋によほど大きな外交上の成果を上げない限り、国民への訴求力は限定的なものとなるかもしれない。

 外交に自負がある岸田にとっても、政権浮揚の王道はやはり経済政策であろう。物価高騰の中、国民生活を改善する真の方策を岸田が講じられるかどうかがカギとなる。

 7月末には、中央最低賃金審議会が最低賃金を全国加重平均で初の時給1000円超えとする引き上げを答申した。各都道府県の審議の結果、全国平均は1004円となった。最低賃金引き上げは岸田が「最重要課題の一つ」と位置付けていた。

 岸田は8月10日に追加策を打ち出している。パート労働者の年収が一定額に達すると社会保険料の負担が生じて手取りが減る「年収106万円の壁」について、手取りが減らないようにする企業への助成制度を「最低賃金が発効する10月から適用する」と述べた。

 しかし、物価の急激な上昇に賃金が追いつかない現状では、政権が期待したほどのインパクトを国民に与えていない。8月22日、岸田は自民、公明両党の政調会長に対し、高騰が続くガソリン価格対策を改めて検討するよう求めた。

 9月中にも新たな大型経済対策を打ち出す方針だ。政権の目玉政策である子ども予算も含めて、抜本的な政策強化を決断すべき段階に来ている。


挽回へなお「余裕」も

 一般メディアでは支持率低下が指摘されるが、霞が関では岸田内閣の足取りを振り返って防衛費の増額や「防衛装備移転3原則」の見直し、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出など「いつの間にか決定している」という評価がある。「淡々と物事を決めている」というわけだ。

 岸田自身、喜怒哀楽をあまり表に出さない性格だが、旧統一教会問題などによる昨年後半の逆風を乗り越えた経験も自信につながっているようだ。周辺には「支持率は下がる時も、また上がる時もある」と楽観的に語る。

 自民党内に自身を脅かす勢力が依然として見当たらないことも、岸田にある種の余裕をもたらしている。最大派閥・安倍派は8月のお盆明け、会長代理の塩谷立を中心とする集団指導体制とする方向でようやくまとまった。同派の後見人である元首相の森喜朗が、地元紙のインタビューに内幕の一部を明かしている。

 それによると、塩谷と同じ会長代理の下村博文が森のもとを訪れ、同派会長への就任を希望した。下村は「今までのご無礼をお許しください」と土下座したが、森は突っぱねたという。その森の思惑通り、塩谷を「座長」とし、政調会長の萩生田光一、経済産業相の西村康稔ら「5人衆」による常任幹事会が置かれることになりそうだ。

 それでも安倍派は、故・安倍晋三に代わるリーダー争いが続くと目されている。下村という不満分子も抱え、当面は秋の内閣改造・党役員人事でポストを確保し、自派の求心力低下を防ぐことに専念せざるを得ない。

 森に対しては、かつての参院のドン・青木幹雄が、茂木派の小渕優子を重用してほしいと「遺言」したという。森は早稲田大の先輩である青木に頭が上がらない関係だった。

 小渕は一昨年秋の岸田政権発足時にも党4役入りが取り沙汰されたことがあり、6月の青木の急逝を機に再び注目を集めている。茂木派のトップである幹事長の茂木敏允は、生前の青木と折り合いが悪かったこともあり、小渕の処遇を岸田がどう判断するかは気になるところだろう。

「ポスト岸田」をうかがう茂木だが、この秋の内閣改造・党役員人事では幹事長続投を希望している。そして茂木をバックアップする副総裁の麻生太郎は、「石原伸晃になるな」と茂木に言い含めている。2012年の自民党総裁選で、当時の総裁・谷垣禎一に弓を引く形で出馬した幹事長・石原の二の舞は避けろという意味だ。

 石原は「平成の明智光秀」と揶揄されて総裁選に敗れ、一気に評価を落とした。「茂木は時が来るまでは岸田を支えることが望ましい」と麻生は考えているようだ。岸田と前回総裁選で争った麻生派の河野も、マイナンバー問題の担当閣僚として矢面に立たされ、苦しい立場にある。

 こうした情勢下で、岸田にはまだ政権基盤を再構築する猶予がある。そのためには何より、長期的な視野に立った政策実現により、日本のリーダーとしての重責を果たすことが求められている。(敬称略)

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