経営の在り方を学んだGE時代
─ その後、帰国してゼネラル・エレクトリック(GE)に入りましたね。
田代 ええ。米国でKPMGのパートナーにまでなることができました。お陰様で米国ではそれなりのキャリアを積んだわけですが、私のキャリアの中で足りなかったことがあります。それは日本で働いたことがなかったということです。
それと、会計士といったコンサルタント業ではなく、事業の中に入りたかったという思いもありました。
帰国したときにGEに雇われました。当時のGEは絶好調で、CEOはジャック・ウェルチさんでした。
そんな中、2000年にGEは男性中心で多様性に欠けると「ウォール・ストリート・ジャーナル」に指摘されました。
それを見たジャックが、社内で見直しが必要だと考え、すぐに世界中の組織に女性管理職比率の目標を示した上で女性管理職の育成に動き出しました。そのときの調査によると、世界中のGEの中でも女性のマネージャーの数で日本が圧倒的な差で最下位だったのです。
─ そこで田代さんに白羽の矢が立ったのですね。
田代 そうですね。もともと私は日本に帰ってから仕事を探そうと思っていたのですが、知り合いのヘッドハンターから「GEが日本で誰かを探しているよ」と声をかけられたことがきっかけでGEに入りました。
─ GEでは、どんな仕事を担当したのですか。
田代 アジア・ソーシング・リーダーという購買関係の仕事を担当しました。それと並行して女性の管理職の育成にも取り組み、「GE Women‘s Network」という組織を立ち上げました。この組織は全世界にあり、米国の場合は女性のエグゼクティブを育てることが目的だったのですが、日本では女性管理職を増やすことが目標でした。
─ GEでどんなことを学びましたか。
田代 3年間在籍しましたが、リーダーシップや経営の考え方について多くのことを学びました。特に印象深かったのは米国クロトンビルにあるGEの研修所で、幹部候補生の育成に特化した研修を受けさせてもらったことです。1カ月間、世界中のGEから選ばれた50人ほどの幹部候補生と昼夜リーダーシップ研修を受けました。
GEはもともとリーダーシップ研修には非常に力を入れていて、世界中の人材をクロトンビルに集めて研修を行っていました。研修中には必ずジャック・ウェルチさんやジェフ・イメルトさん(2001年から17年までCEOを務める)がこの研修施設に訪れていました。
─ 直接トップが来て指導を行っているのですね。
田代 はい。経営手法という意味では非常に特殊な会社だと思います。GEは全世界約110カ国の拠点で、皆に同じ方向を向かせるためには数字の目標を示すしかないという考え方を持って研修していました。世界で一律の数字を掲げるのです。
そうすると、日本はもともと利益率が低いことが炙り出されます。そのときにお客様との関係などを言い訳にすることは一切許されません。彼らが言ったのは、言葉には様々なニュアンスがあるから、言語にすると皆が同じ考え方をもっていなかったりする場合がある。
しかし、売り上げ5%アップと言えば、これはきちんと測れる。だからこそ目標を明確にするという意味では、もの凄くシンプルな目標を挙げるのです。そうすれば誰でも理解できますし、全世界の三十数万人の従業員が目標を理解できますからね。「ああ、そうなのか」と思うことはたくさんありました。