「わたくしも40年近く感染症をずっとやって来ていますけれども、今回のように感染者が世界で8000万人を超えるような感染症は初めて。というよりも、これだけインパクトがあるのは100年ぶり、スペイン風邪(第1次世界大戦時)以来だろうと思います。病原性のものすごく高いエボラ出血熱みたいな感染症もありましたけれどもね」
感染症学の専門家で東北大学名誉教授を務め、現在、東北医科薬科大学医学部感染症学教室特任教授の賀来満夫氏はこう感想を述べ、次のように語る。
「感染症とは、1人の病気が他の人の病気になるというもの。感染症は全ての方が罹患し得る。個人の病気であると同時に、社会の病気でもあるということです」
今回のコロナでは、差別も生まれた。
一種の社会的パニックが起こり、それが感染者への差別にもつながる。誰でも感染するのだということを認識し、国民全体が理解を深めて、「お互いにリスクコントロールに取り組むことが大事」と賀来氏。
感染症は人と人が出会ったときに感染するのだが、ただスレ違っただけでは感染しない。
電車内の吊り革やドアのノブにウイルスが付着するが、それに手が触れるだけでは感染しない。その手で自分の鼻や口に触れると感染リスクは一気に高まる。目からも感染するため、ウイルスに触れる可能性のある手を鼻や口、目に持っていかないことが肝腎。
緊急事態宣言が1月、再び発令されたが、社会的に今後、どう感染症対策を進めていくか。
医療施設は医療崩壊が叫ばれるほどのひっ迫ぶり。 医療施設や介護・福祉などの高齢者施設はクラスターが発生しやすい。同じ集団施設である学校や映画館、またスーパーなどの流通施設、さらには宿泊施設などで、どう対策を取っていくか。そして家庭内感染をどう防ぐかという命題である。
感染症を防ぐために部屋の換気が大事で今、換気扇のない部屋向けの空気清浄機開発が進む。例えば紫外線を使って、室内のウイルスなど微生物をゼロ化する装置などは米CDC(防疫センター)が結核予防ですでに推奨。
紫外線ロボットもすでに登場しており、病院内の空気清浄化を担う。こうした紫外線の装置を救急車に付けるのをはじめ、JR各駅や東京ドームなどのベンチに設置しようという動き。
紫外線の他にオゾンを使ったり、また微生物に強い素材としての銅やセラミックスなどをどう活用していくか。
歯科材料のセラミックスはほとんど虫歯にならない。いわゆる菌の塊が付きにくいということだが、こういう素材を使って、家庭や学校、企業、スポーツ施設に活用していくことも、現代の国土強靭化の1つだ。
新型コロナは100年に1度のパンデミック(世界的大流行)感染症ということだが、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)などここ10数年の動きを見ても、「これから2、3年に1度の割合で感染症が襲来する可能性もある」という専門家もいる。
感染症をくい止めないと人は生きられない。そしてまた、人は経済なくして生きていくことはできない。その意味で、まず先頭に立つべきリーダーの覚悟が今ほど求められている時はない。