2021-01-22

コロナ危機、脱炭素の中で、次の投資をどう進めるか── 新しい経営の仕組みづくり 不安の時代を忍耐強く! 求められるリーダー の『覚悟』

GINZA


 かつて御三家といわれたものの、すでに2000年(平成12年)の段階で売上こそ、まだ業界4位は保っていたものの、利益は12位まで低下。

 いわゆる多角化を推し進めてきており、医薬品以外の事業も抱え込んでいた。その大半が赤字事業であった。

 そこで、医薬品以外の動植物薬品や医薬品卸などを他に譲渡。これで売上高は4000億円から半減、従業員も約半分の規模にした。1878年(明治11年)創業の142年余の歴史を持つ塩野義にとって、初めての本格的リストラクチャリング(事業構造改革)であった。

 もともと『販売の塩野義』といわれ、販売力には定評があった。有力外資も自分たちの販売力を頼りにしてくると見ていたが、1980年代、90年代と外資は自ら日本国内での販売網を構築。

 2000年頃同社は国内市場依存度が高く、グローバル化の波にも乗り遅れた。手代木氏は危機感を強め、本格的な事業構造改革に着手。

 当然、グループ内から抵抗も受けたが、徹底的に関係者と話し合った。「あなたの言う事に納得はいかないが、理解はする」との言葉を残して去った年上のベテラン社員もいた。

 改革にはいろいろな思いや感情、情緒が付きまとう。そうした事を念頭に改革を進めねばならないという意味でリーダーには覚悟が求められる。
手代木功・塩野義製薬社長

事業領域を絞り込み
自らの得意分野を創る

 経営の体質を筋肉質にしての再出発。01年に英グラクソ・スミスクラインと海外合弁(JV)を設立、02年にHIV(抗エイズウイルス)感染症治療薬の共同研究開発を開始。今やエイズ治療薬は同社の得意分野に成長している。

 もともと自社製薬抗菌薬サルファ剤『シノミン』(1959年発売)はロシュ(スイス)に導出され、世界中で感染症の治療に貢献してきたという歴史。

 HIV治療薬、そしてインフルエンザ治療薬の『ゾフルーザ』はグローバル市場をリード。高脂血症薬の『クレストール』はグローバル市場で毎年6000億円―8000億円の売上高を誇るヒット商品。

 これが2016年、17年にそれぞれ米国、英国で特許切れになった。クリフ(崖)を避けるため、手代木氏は英アストラゼネカと提携、相手のグローバル販売網を活用。こちらはロイヤリティ収入を得るという形での提携。2010年から15年までは毎年7億ドルから8億ドルのロイヤリティが得られた。毎年800億円前後の利益を計上できるのだから、この提携はクリフを意識しながらの体質強化・収益強化につながった。

 世界の医療界にもあまり類例がない売上高営業利益率30数%という高収益体質は手代木氏の経営者としての決断と覚悟から生まれたと言っていい。お互いの強さを提携でさらに強化していく 新型コロナはパンデミックを引き起こし、国民の命と健康をどう守るかという危機管理、安全保障の命題を経済領域まで投げ込む。

「必要な治療薬の製造設備を建造するのに3年、4年かかります。基盤がゼロなら、その間、国民の命を救うために外から物を入れなければならない時に、相手との交渉上、日本は不利になります」と手代木氏。

 中長期展望で自らの経営ビジョンをどう構築していくか。2030年をレンジに手代木氏は『HaaS(ヘルスケア・アズ・ア・サービス)という考え方を打ち出す。

 単に治療薬を創り出すだけではなく、「常に人々の健康を守るために必要な、最も良いヘルスケアサービスを提供する会社になろう」と社内に呼びかける。

『自助・共助・公助』という考えが社会運営の基本にある。

「ある意味で、国が全部面倒を見るわけではなくて、やはり運動や食事を含めて、自分の健康、自分の人生をどうしていくか。適正な負担と適正なリターンで考えていくことがテーマになると思います」

 これは1社でできるテーマではなく、「各領域で自分の強みを持たれた内外の企業さんと提携していきたい」と手代木氏。

 自らと相手の強い所の相乗効果を引き出す提携の時代だ。この時代の転換期で問われる日本の真価 今、デジタル革命の中で世界をリードするのは米国のGAFAMと呼ばれるIT企業勢。アップル、アマゾン、グーグル、フェイスブックやマイクロソフトといった企業。

 5社の株式の時価総額は日本の全上場企業のそれ(約670兆円)を上回る。アップル1社で約200兆円という企業価値。
 株式市場がバブル気味ということはさておき、市場はそういう評価をしているということ。

 日本の企業の立ち位置をみると、時価総額での50社ランキング(20年11月時点)はアップルを筆頭に、2位はサウジアラムコ、以下、マイクロソフトなどのGAFAM勢が続き、7位、8位に中国のアリババグループ、テンセントホールディングスがくる。8位には電気自動車の米テスラという順位。

 日本勢はトヨタ1社だけが50位に入っているが、順位は49位。今から30年前のバブル経済崩壊直前、50位の中に日本勢はNTTが1位、2位に日本興業銀行(現みずほ)、3位は住友銀行(現三井住友)と続き、計32社が入っていた。

 日本は〝失われた30年〟といわれてきたが、今のコロナ危機の中でグローバル競争をどう生き抜いていくかという命題。

 従来、制約要因と見られてきたものを成長要因に切り換える─。2050年にCO₂排出ゼロを日本政府は掲げた。産業界の意識変革も緒についたばかりだが、水素ガスの活用、あるいは車のEV(電気自動車)化にしろ、日本が世界を引っ張っていく『日本モデル』を創りあげられるかどうか、まさにリーダーの覚悟が問われている。

本誌主幹・村田博文

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