2022-07-09

【政界】最大派閥の安倍派を意識しながら地固め図る岸田首相の覚悟

イラスト・山田紳



区割り改定も火種

 ある自民党政治家が思い浮かぶ。今年1月に91歳で死去した海部俊樹だ。

 89年の参院選で自民党が敗北すると、当時、最大派閥として権勢を誇っていた竹下派は、河本派の海部を新総裁・首相に担ぎ出した。中小派閥出身の海部に実権はなかったが、クリーンなイメージが世論に受け、内閣支持率は高水準で推移。90年の衆院選で同党は大勝した。

 しだいに自信をつけた海部は91年、衆院への小選挙区制導入を柱とする政治改革関連法案が党内の反対で廃案の運びになると、「重大な決意で臨む」と表明するに至る。これに対して「海部おろし」が激化し、最後は竹下派にも見限られて同年11月に退陣した。

 やや話がそれるが、海部の首相在任中にはイラクがクウェートに侵攻し、91年に湾岸戦争へと発展した。停戦後、国論が二分する中で政府はペルシャ湾に海上自衛隊の掃海艇を派遣。これが自衛隊の海外での活動が拡大する契機になった。現在のウクライナ危機と対比すると、政権が国際情勢への対応を迫られている点も似通う。

 自民党が参院選で勝利したとしても、党内第4派閥の岸田派に政権運営の主導権が移るわけではない。海部の例を引き合いに出すまでもなく、慎重さが身上の岸田が、安倍の不興を買うような人事をあえてするだろうか。「不可解さ」の理由はそこにある。

 政府関係者は声を潜める。「島田の交代が突然決まったとは考えにくい。安倍サイドがうまく利用した可能性がある」。解説はこうだ。岸が島田の交代を発表すると、多くのメディアが「岸田対安倍・防衛省」という視点で報じた。安全保障に関する国民の意識が高まる中、それは安倍にとって決して不愉快ではない――。

 この間、安倍は防衛費増額だけでなく、自民党内の積極財政派の後ろ盾になって財政健全化目標の見直しを政府に迫るなど、表立った発言を強めてきた。参院選後も、安倍派をおろそかにしたら岸田政権は成り立たないというブラフと言える。

 ほかにも火種はある。

 衆院選挙区画定審議会(区割り審)は6月16日、小選挙区を10増10減し「1票の格差」を最大1・999倍に抑える区割り改定案を決定し、岸田に勧告した。見直しの対象は25都道府県の140選挙区に及ぶ。岸田は区割り審の作業をねぎらい、「内閣としては、勧告に基づき、必要な法制上の措置を講じる」と述べた。

 しかし、人口比をより反映しやすい「アダムズ方式」で区割りを見直すと、議席は東京など都市部に集中する。地方の保守地盤がダメージを受けるため、選挙制度に詳しい衆院議長の細田博之は10増10減案を公然と批判してきた。

 山口も1減の対象だが、安倍の地盤の下関市と、外相の林芳正の地盤の宇部市は別の選挙区になり、2人の公認争いは生じない見通しだ。それでも、安倍は「3増3減(東京3増、新潟、愛媛、長崎各1減)でも格差は2倍以内に収まる」と周囲に語り、10増10減には懐疑的だという。

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