2022-07-09

【政界】最大派閥の安倍派を意識しながら地固め図る岸田首相の覚悟

イラスト・山田紳



「もう決めたことだ」

 政府が6月7日に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」で、23年度の防衛費は「新たな中期防衛力整備計画にかかる議論を経て結論を得る必要があることから予算編成過程において検討し、必要な措置を講ずる」と記された。

 翌年度の予算編成は、まず夏の概算要求基準(シーリング)で一定の制限をかけるのが通例だが、防衛費に関しては、年末までの新中期防策定作業に沿って予算をつけるという意味だ。事実上、シーリングの対象外になる可能性がある。

 自民党は、防衛費を5年以内に国内総生産(GDP)比2%以上に引き上げるよう求め、島田は政府側でその旗を振ってきた。ロシアによるウクライナ侵攻後、安倍が来年度は7兆円近くまで増額するよう繰り返し発言していることとも一致する。

 骨太の方針は防衛費の具体的な水準には触れていない。玉虫色の表記にしたのは、増額幅を巡って首相官邸と自民党に隔たりがある証拠だろう。「増額の財源をどうするのか。医療費負担や年金にしわ寄せがいく」(共産党委員長の志位和夫)という野党の批判に、岸田は「(2%の)数字ありきではない。国民の命や暮らしを守るために何が必要かを踏まえ、予算と財源を詰める」と真正面から答えていない。

 関係者によると、安倍の怒りにひるんだ木原は、すぐに岸田のもとに駆け込んだ。しかし、岸田は「もう決めたことなんだから」と取り合わなかったという。一方、安倍は「こういうことをしていると政権全体に影響する」と不満を漏らした。

 内閣人事局は、08年に成立した国家公務員制度改革基本法に基づき、第2次安倍政権時代の14年に設置された。各府省による縦割り行政の弊害を改めるのが目的だったが、安倍、菅両政権が長く続くうちに、人事権を武器にした官邸による霞が関支配が強まった面は否定できない。

 安倍が今回、その内閣人事局から島田の続投にノーを突き付けられたとしたら、皮肉と言うほかない。政府高官は「さすがに安倍さんから人事にまで口を出されるのは嫌だろう」と岸田の決断を支持した。

 ただ、不可解さは残る。ストーリーがあまりに出来すぎているのだ。

「政高党高」と称して自民党への配慮を欠かさない岸田の政治手法は、「何がしたいのかわからない」(政府関係者)という批判と背中合わせだ。当然、そうした声は岸田の耳にも入る。だからといって、今回の人事で岸田が「安倍の言いなりにはならない」と宣言したと考えるのは早計ではないか。

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