経済安全保障、中国との関係は?
─ 産業界にとって経済安全保障は重要度を増しています。例えば日本にとって最大の貿易相手国である中国とは経済的つながりが深い一方で、経済安全保障上、どうカジ取りすべきかが問われます。この問題をどう考えますか。
林 おっしゃったように、中国は日本にとって最大の貿易相手国であり隣国です。また、中国には日系企業が進出をされ、そこに駐在する日本人社員の方が大変多いですね。
その意味でも経済においては対話、実務協力を適切な形で進めていかなければならないと考えています。先日も中国の王毅・国務委員兼外交部長(外相)と電話会談を行いましたが、2022年は日中国交正常化50周年ですから、これを契機に経済、国民交流を後押ししていくことで一致しました。
同時に、そういう交流があるからといって、例えば尖閣諸島を含む主権領土の問題、民主主義や人権など基本的価値について譲ることがあってはならないと考えています。
─ 主権について主張をしていくと。
林 ええ。さらには中国による透明性を欠いた軍事力、軍事活動の拡大、東シナ海における一方的な現状変更の試み、軍事活動の拡大化・活発化は、日本のみならず国際社会の安全保障上の懸念になっています。このことは中国側にも強く言っていくつもりです。
今、中国は世界第2位の経済大国ですから、様々な面で、その行動が国際社会に与える影響が増しています。その意味で中国が国際社会のルールに則って責任を果たしていただき、期待に応えていただくことが重要だと考えています。
最近よく「同志国」といいますが、普遍的価値を共有する国々としっかり連携して、ハイレベルの機会も活用しながら、主張すべきは毅然として主張し、責任ある行動を求め、同時に対話を続けて共通の諸課題について協力していくというスタンスで取り組んでいきます。
─ 今、資源エネルギーを含めた原材料価格が高騰、モノ不足が続いています。世界的な半導体不足など、サプライチェーンをどう維持するかは経済人の最大の眼目です。ここで官民連携も必要になってくると思いますが。
林 この問題は外務省を離れるかもしれませんが、自民党ではこの2年ほど、甘利明先生を中心に経済安全保障に関する議論を進め、2021年5月には中間とりまとめを公表しています。
こうした議論を踏まえて、初代の経済安全保障担当として小林鷹之大臣が今回就任されました。小林大臣の下で1月からの通常国会には経済安全保障の基本的な考え方に基づいた法案が出てくると承知しております。
卑近な例ではコロナ禍で、マスク不足を受けて国内企業に増産をお願いしたわけですが、なかなか捗らなかった。それは日本企業であっても工場が中国にあり、なかなか中国から日本に輸出ができないという問題があったからです。
その時、「戦略的自律性」と言っていましたが、様々な意味で必要な物資のサプライチェーンは国内で持っていかなければいけないのではないかという議論になりました。
もう一つ、日本は高度な先端技術を持っています。諸外国にとって、日本ときちんと付き合わないと、そうした技術が手に入らなくなるという意味で重要な国だと認識してもらう。こうした「戦略的不可欠性」を確立することが重要だという議論を党でまとめました。
これを実現する上で、アメリカや欧州の同志国とは、同じような考え方で進んでいく必要があります。そのためのルールをつくっていくためにも、緊密に連携していくことになろうかと思います。
─ 企業としては地政学が絡む問題ですから、政府との連携が大事になってきます。
林 そうですね。この問題は、実は新しい産業政策の側面が出てきます。これまではなるべく市場に任せて自由にという時代でしたが、これからは新しい意味で官民が協調しながらやるべき分野が増えてくるという意味では、かつての産業政策ではなく、新しい産業政策と言えるのではないでしょうか。
─ こうした新たな時代の他国との関係、国と企業の関係の中で、改めて国の役割をどう考えますか。
林 新しい産業政策と申し上げましたが、その意味で政策ですからまさに国がやるということです。官民で協調し、対話をしながら、何が全体としていい方向にいくのかということを、よく擦り合わせしながら進めていくことが大事になってくると思います。