2021-12-08

伝統の多角経営を進化【旭化成 ・小堀秀毅】の『3領域経営』と『GDP戦略』

旭化成社長 小堀秀毅



大震災の被災地・浪江町で進むグリーン水素の生産

 グリーン水素については、同社は今、東日本大震災の被災地、福島県・浪江町で水素生産の社会実装を進めている。これは、政府のグリーンイノベーション基金を活用したもの。
 アルカリ水電解という手法でグリーン水素をつくり出す。この水素から電気を起こすという社会実装。
 このオペレーションシステムの部分が、旭化成が受け持っているプロジェクト。
「そのシステムを動かすのを、太陽光エネルギーみたいな再生可能エネルギーでやれば、そこでは全然CO₂を排出しない」と小堀氏。
 ここ浪江町でつくられた水素は、今回の東京オリンピック・パラリンピックにも供給された。
 ただ、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、発電が安定しないという課題がある。太陽がさえぎられる夜間や、風が吹かない時は発電できない。そうしたときに何で補給するかというテーマである。
「夜間は普通の発電所の電力に切り換えなければいけないとか、変動をコントロールする必要があります。効率よく動かし、運転していくために、安定的に水素をつくることが求められます」
 水素は、この他にいろいろな形でつくれるし、次世代車といわれる燃料電池車の熱源にもなる。
「ええ、そういうところで、われわれのケミカルの力が相当貢献できると考えています。今は、時代の転換点であり、分岐点になっているので、われわれも中長期的にCO₂削減に向けた投資を進めていきたい」

 小堀氏はこう投資について語り、「新たなイノベーションがないと、CO₂削減はできない。われわれのテクノロジーが、今度はビジネスとして社会に貢献できるかが問われていると同時に、大きなビジネスチャンスがやってきたと捉えています」という認識を示す。
 同社のキャッシュフロー(現金流量)はこの3年間で7000億円から8000億円。そこで次の中長期経営計画(2022年度から2025年度まで)の3年間に8000億円規模の長期投資を進める予定だ。

「この間、M&A(合併・買収)をやったので、(利益が膨らんで)投資はもう少し増える可能性がある」と攻めの経営が続く。

浮かび上がった〝3つの視点〟

 コロナ危機に見舞われて約2年が経ったが、今回の危機で感じたことは何だったのか?
「従来の感染症は、特定の地域で起きたりしていたわけですが、今回はパンデミックになり、それはもう今まで経験していない大きな出来事、地殻変動だろうと。これによって、大きなことが起こって、われわれが今まで気付かなかったことがより鮮明
に見えてきたということ。従来から見えていたものの価値がより高まってきたとか、今まで少しずつ動いていたものが急激にクローズアップされたりした」

 具体的に、それは何か?

「1つは、健康で快適な長寿社会は従来からも見えていたものだけど、今回のコロナでいかに、人間の命、健康が重要かと。これは予防から始まって診断、検査、治療、アフターケアという一連の重要性が認識されましたね。これは今後、さらに高まっていくと思います」

 小堀氏が続ける。「もう1つ顕著になったのが、やはり水素社会であり、カーボンニュートラルであり、また循環型社会の必要性ですね。コロナで生産活動が一時期ストップして、もう一度再開することによって、いかにCO₂を排出していたか。それから、今の自然災害多発で、それによる日常生活での被害も顕著になってきて、全体の意識が変わってきました」

 小堀氏は、「水素社会と言われるカーボンニュートラルな社会とリサイクルも含めた循環型社会」が世界共通の目標になったという認識を示す。
 そして、最後の3つ目に、「情報化社会の高度化」を挙げる。
「これは従来からの流れでしたが、ここへ来て大きな流れになってきたと。大きな変化でまさに時代の分岐点になってきたと」
 既述したように、GX、DXが企業経営の根幹になってきたということ。

本誌主幹 村田博文

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