2021-07-31

【アリババ、テンセント、滴滴に相次ぎ発令】 中国IT企業への当局規制が世界経済に波紋

川島 富士雄・神戸大学大学院法学研究科教授


「中国発のデカップリングが世界経済に影響」
神戸大学大学院法学研究科教授 川島 富士雄 Kawashima Fujio

アリババ、テンセント規制の狙い

 当局が11月10日に出したプラットフォーマー規制のドラフトを見ると、アリババへの規制強化は、昨年10月のジャック・マー氏の金融当局批判がきっかけではなく、それより前から対応を進めてきたことが窺われる。

 金融当局に加え、中国共産党宣伝部がIT企業への認識を変化させたことで、共産党内部の力学が変わり、市場を独占するIT企業への規制が強化されたといえる。

 ただ、規制当局も習近平国家主席も民間企業のイノベーションには期待を表明しており、あくまでもルール遵守が狙いと言える。独占を禁止し、競争者も入れるようにして独占利潤を獲得する状況から競争市場での適切な利潤獲得へと落ち着く過程に入ったといえる。

 今回の規制でアリババやテンセントの収益力が下がり、スタートアップへの資金提供者としての役割は低下するかもしれないが、競争者を排除するようなエコシステムを打破することで長期的にはイノベーションは促進されるだろう。

米上場企業への規制と影響

 滴滴出行への規制は、米上場企業のデータがアメリカに流出する懸念から出てきている。

 2017年に施行された「ネットワーク安全法」は、重要情報インフラ事業者がサーバーなどの設備導入時にデータ漏洩リスクを審査すると規定する。7月2日の発表で、当局は、この名目で滴滴への審査を開始したが、滴滴が新たに設備を導入した形跡はなく、7月4日になると、今度は個人情報保護で問題があると発表し、アプリストアでの配信が停止された。

 さらに7月10日には、9月施行の「データ安全法」を根拠に、海外に上場す企業に事前申請を新たに義務付ける「ネットワーク安全審査弁法」改正案を公表した。今回の規制は試行前の法律を前倒しで適用した形となっている。

 滴滴は地図情報の他、誰がどこで乗り降りしたかなど国内の重要な場所がわかるデータも持っているため、安全保障上の規制と理解できるが、規制の不透明性故、市場を大きく揺るがす結果となった。また、100万人を超える個人情報を持つ企業が国外上場する際に安全審査を義務付けられると、しばらく中国企業の米国上場は考えられない時期が続くのではないか。 そうなると、莫大な資金を米上場で獲得できなくなり、イノベーションも停滞する可能性がある。

 また、これまでの米中摩擦は、半導体や通信機器規制など、米国発だったが、今回は中国発の規制により、米中デカップリングが促進される動きになっている。データ面、金融資本面でアメリカとの関係を切る動きでもあるため、デカップリングが加速し、中国だけの問題ではなく、全世界の経済に影響を及ぼす動きにならないか懸念している。(談)

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