2021-07-30

【政界】ワクチン次第で任期満了選挙の可能性も 衆院9月解散を狙う菅首相が抱える内憂外患

イラスト・山田紳



政局の顔ばかり

 そうした状況を見越してか、党内では元首相の安倍晋三、麻生太郎、そして自民党税制調査会長の甘利明の「3A」と呼ばれる重鎮議員が相次いで議員連盟や勉強会の要職に就き、政策を主導する動きをみせていた。

 甘利が会長を務め、安倍、麻生が最高顧問に就く「半導体戦略推進議員連盟」が5月に発足したのをはじめ、安倍と甘利は「未来社会を創出する、バッテリー等の基盤産業振興議員連盟」も発足させている。6月8日の「日豪国会議員連盟」の会合では、安倍、麻生が最高顧問、甘利が顧問に就任した。

 いずれも次の閣僚・党役員人事をにらんで、存在感を示す狙いがあるとされる。何か起きればいつでも動ける準備は整っている──との思いがにじむ。菅政権で実権を握る党幹事長、二階俊博を牽制する意図も透けてみえる。そうした「二階包囲網」を敏感に感じ取ったのか、二階自身も腰を上げた。

 二階は6月15日、「自由で開かれたインド太平洋推進議員連盟」を発足させ、自身が会長に就くと共に、安倍を最高顧問に招いた。この日の設立総会には党内各派閥から約130人が出席。二階は「われわれの思いが広く国際的に広がることを期待したい」と訴えた。

 実は、この総会と同時刻、甘利は半導体戦略議連の勉強会を予定していた。互いに存在感を示すことを狙っただけに、自民党内には「踏み絵」との受け止めが広がった。最終的に半導体戦略議連が30分遅れで開始することで全面衝突は避けられたが、二階は安倍を最高顧問に据え、3Aにくさびを打つことに成功した。さらに、二階は6月17日、議員連盟「自治会・町内会等を応援する会」も旗揚げしている。

 もともと、議員連盟や勉強会は自民党内の権力闘争のツールとされてきた。派閥の垣根を超えた結束を示し、発信を強める動きだ。2000年に発足した自民党若手議員による「自民党の明日を創る会」などが典型と言える。メンバーの多くは元幹事長、加藤紘一が率いた当時の加藤派議員だったため、「加藤別動隊」と呼ばれた。年功序列人事の見直しや開かれた総裁選の実施などの党改革を訴え、反目した当時の森喜朗政権を党内から揺さぶった。

 05年には加藤が、当時の首相・小泉純一郎の靖国神社参拝を政局に転化させようと議員連盟「靖国問題勉強会」の発足に動いたこともあった。17年7月にはリベラル系若手議員が「過去を学び『分厚い保守政治』を目指す若手議員の会」を立ち上げ、当時の首相・安倍晋三の総裁選の無投票再選を阻止しようと動いた。このときは、安倍に近い議員が「文化芸術懇話会」を発足させて対抗し、火花を散らした。

 今回の議員連盟もそうした動きの延長線にあるといえる。党内の権力闘争の動きにほかならないが、過去の議員連盟と決定的に違うのは、反主流派による主流派の弱体化を狙った動きでもなければ、菅と対峙する有力議員の別動隊でもないことだ。

 各議員連盟を主導しているのは3A、二階らで、いずれも菅を支える議員であることだ。菅を引きずり下ろす動きはなく「菅が立ち行かなくなったときのことを見越した主導権争い、キングメーカー争い」(自民党中堅)といえる。

 これには「ポスト菅」候補の一人とされる前政調会長、岸田文雄もすかさず参戦した。6月11日に「新たな資本主義を創る議員連盟」を立ち上げた。国会内で開催した初会合には150人近い党所属議員が出席。安倍と麻生、甘利の3Aも顔をそろえた。

 岸田が「持続可能性のある経済、そして健全な民主主義を守るため、自民党からしっかり発信したい」と訴えた。ただ、麻生は「真面目に政策を勉強する顔ばかりとはとても見えない。政局の顔がやたら見える」とあいさつした。

 岸田派内には「政策を重視するこれまでの議員連盟、勉強会と同じだと思っていたが、3Aがきたことで空気が変わった。これだけの人数が集まって良かった」(岸田派関係者)との声もあがった。

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