2021-05-14

日本の“失われた30年”を脱却するには? 答える人 冨山和彦・日本共創プラットフォーム社長

冨山和彦氏



地上戦と空中戦をどう連動させていくか



 ―― つまり、消費者が求めているのはソフトだと。

 冨山 ええ。洗濯機や冷蔵庫などの白物家電はアナログな技術がモノをいう世界で、例えるなら、アナログは典型的な地上戦ですよね。ところが、デジタルの世界は空中戦で、今の消費者は空中戦を求めています。

 日本は伝統的に地上戦が得意でした。いわゆるLは観光にしろ、外食にしろ、地上戦がメインです。食事は絶対にバーチャルにはなり得ないし、観光も基本的にはリアルの世界。医療・介護もICT(情報通信技術)の活用で生産性を向上させることはできるけど、これも基本的には地上戦のリアル産業です。

 それなのに、日本の産業界から聞こえてくることは、所詮リアルかバーチャルかを分けたがって、あいつらはリアルではなく、バーチャルだと。リアルな自分たちこそ必要なんだというバイアスがかかりすぎていたということが、産業構造の転換に乗り遅れた原因だと思います。

 ―― リアルもバーチャルも両方必要なんですね。

 冨山 米アマゾンなんかも地上戦が重要だということに気づいて、空中戦で攻めて行って、地上戦を守ろうとしている。日本の楽天がスーパーの西友と組んだのもその一例です。

 ―― エレクトロニクス産業でソニーだけが業績好調なのは、ゲームや映画などのコンテンツサービスがあるからと言ってもいいですか。

 冨山 はい。ソニーはゲームなどのコンテンツを持っていたから空中戦のお客さんを捕まえることができたのと、あとは半導体事業ですよね。ハードウェアで唯一儲かるレイヤーは半導体です。これは電脳空間の処理を伴うものですから、今後もしばらくは儲かり続ける。ただ、そのソニーもテレビや携帯電話自体は苦戦していますからね。

 そういう意味で考えたら、ローカル産業はもっと地上戦の効率を上げて、生産性を上げていく。その上で、空中戦の力をつけていくことが大事なのではないでしょうか。

 ―― では、どのように空中戦の力をつけていけばいいと考えますか。

 冨山 それは提携するなり、有望な企業を買収するなり、いくらでも手はあると思います。

とにかく今は、自分たちは地上戦が得意なのであって、空中戦は得意じゃありませんと言って、何も手を打たない企業が多すぎます。何も手を打たない限り、市場から退出を余儀なくされるのは誰のせいでもない、当然のことだと思います。

 ―― それが経営者には問われていると。

 冨山 それを考える発想力がないと当然ダメですよね。だから、地上戦、空中戦、その両方をどう連動してビジネスモデルを構築していくのか。それが経営者に問われていくのだろうと思います。

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