2024-03-21

【政界】国民の信頼回復に向けて岸田首相は行動できるか? 「全容解明」の先に待つ改革への覚悟と課題

イラスト・山田紳



裏金と確定申告

 自民党の政治資金とともに、領収書などが不要な「政府の裏金」も改めて注目された。官邸が支出する内閣官房報償費(官房機密費)である。

 裏金問題で官房長官を辞任した松野博一が、昨年12月の辞任までの14日間だけで機密費4600万円あまりを支出していたことが発覚した。松野は毎月の初めにその月の分を支出する慣習があったと釈明したが、「辞める閣僚が、短期間になぜそれほど多額の支出が必要なのか。駆け込みで支出された裏金ではないか」と批判が相次いだ。

 官房機密費は政策への非公式な協力の対価、情報収集の謝礼、慶弔費にあてられるとされる。歴代政権が1年に十数億円程度を使っているが、具体的な使途が明らかになるケースはほとんどない。

 かつて元官房長官・野中弘務(故人)は、小渕恵三内閣時代に毎月5000万~7000万円を支出しており、「自民国対委員長に500万円、首相の部屋に1000万円」のほか、党の参院幹事長室や政治評論家らにも配った、と生々しい証言をしたことがある。

 このため、時の政権は「国民のためではなく、政権維持のために巨額のカネを使っているのでは?」と常に疑惑の目を向けられてきた。選挙対策や自民党総裁選で票集めをする見返り、予算案・法案の国会審議を円滑にするために野党を懐柔する費用などである。

 間の悪いことに、裏金問題の衆院審議が白熱した時期は、税金の確定申告(2月16日~3月15日)と重なっていた。厳しい税の取り立てを受ける一般国民が「国会議員の裏金にきちんと課税しないのは不公平だ」と反感を覚えたとしても致し方ないだろう。

 岸田が2021年の党総裁選に勝利して最初に幹事長につけた甘利明は、在任中の35日間に政党から政治家個人に支出される「政策活動費」3億8000万円を受け取っていたことが判明した。裏金や政策活動費は、使い切らなかった残額を政治家個人が保管していれば雑所得とみなされ、所得税法上の課税対象となり得る。

「脱税とならないように当時使い切ったのか。確認してほしい」と追及された岸田は「適正に処理されている」と調査を拒否した。安倍政権時代に幹事長だった二階が党から受け取った政策活動費50億円についても、岸田は「確認するまでもなく、適切に使用されていると認識している」と苦しそうに答弁した。

 その一方で、岸田は確定申告について「法令にのっとり適切に申告、納税を行うようお願いしたい」と国民に呼びかけたため、批判の火に油を注いでしまった。一般人の申告漏れには重い追徴課税をするくせに、議員の政治資金は収支報告書を訂正すればおとがめなしなのか、というわけだ。

 確定申告期間のスタート時に大きなトラブルは起きなかったものの、財務相・鈴木俊一は「国民が不安や怒りを持っていると感じる。税務署職員が大変苦労しているのは申し訳ない」と謝罪せざるを得なかった。

 政治資金ばかりか、沈静化したかに見えた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政権の関わりまで再浮上した。文部科学相の盛山正仁が、21年衆院選で教団の友好団体から支援を受けていたという問題だ。

 当時の写真も報道されたが、盛山は国会で「記憶にない」を連発した。さらに「団体の推薦確認書にサインしたかもしれない」と言ったかと思えば「推薦書はちょうだいしていないのではないか」と言を左右にした。党内からは「さっさと謝って、今後は付き合わないと反省して見せればいいのに、ごちゃごちゃ言い訳するから事態が悪化するんだ」(中堅議員)と苦言も漏れた。


政策遂行の決意を

 予算案の衆院通過が見えてくると、立憲民主党は盛山の不信任決議案を提出し、予算審議を遅延させる戦術に出た。

 自民党執行部は野党をなだめるべく、急いで衆院政倫審への出席を安倍・二階両派の幹部に打診し、松野や前経済産業相の西村康稔、前国対委員長の高木毅、派閥座長の塩谷立、二階派事務総長の武田良太が出席の意向を示した。ところが、開催に向けた与野党の協議が難航。たまりかねた岸田は、自ら政倫審に出席の意向を表明するという大ばくちに打って出た。

 政治資金パーティー券収入の還流(キックバック)を受けていた中堅・若手の議員からも「有権者に『潔白』をアピールしたい」と政倫審出席を望む声が相次ぐ。参院でも政倫審を開催せざるを得ないだけに、今後も火種は尽きない。

 結局、1~2月の国会は政治とカネの「全容解明」という第1フェーズにおける混乱に終始し、自民党内のルール作りや規正法改正など、次のフェーズに向けた展開はほとんど見られなかった。

 物価高対策をはじめとする日本経済の再生、能登半島地震からの長期復興など、本来、国政が真摯に取り組むべき懸案は多い。ただ、国民の信頼なくしてそれらの政策遂行があり得ないことも、また事実であろう。

 窮地が続くトップリーダー・岸田に求められるのは、時に政権与党の痛みを伴う大ナタを振るってでも、抜本的な信頼回復への道筋をつける大仕事だ。

(敬称略)

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