2024-03-04

吴江浩・中華人民共和国駐日本国大使に直撃!「様々な問題をしっかりコントロールし、全体として良い方向にむけて日本側と一緒に努力する」

吴江浩・中華人民共和国駐日本国大使

「両国の経済協力は緊密。下手をすれば一緒に損をし、逆に得をすれば一緒に繁栄する。両国の経済人はこの関係を継続させていくことが大事だ」─。このように語るのは中国大使の吴江浩氏。米中対立が続く中で日本人ビジネスマンが拘束されるなど日中間の懸念材料もある。しかし、吴氏は「中国の発展には世界が欠かせず、世界の発展にも中国が必要」と話し、グローバル時代における相互に交流拡大が必要と強調する。新しい時代における日中関係とは。

<世界が混沌とする中、日本の立ち位置は?> 答える人 前防衛大学校長・國分良成

得をすれば一緒に繁栄する関係

 ─ 駐日大使就任から約10カ月が経ちましたが、自らの使命をどう考えていますか。

 吴 今回は3回目の駐在となり、十数年ぶりに日本に戻って仕事をすることになりました。その間、中日両国とも大きく変化しつつあることを痛感しています。また、それよりも大きな変化は私たちのいる世界が激動していることです。

 中日関係は利益が緊密に結びつき、重要な発展のチャンスを迎えていますが、同時に国際情勢、特に外的要因によって著しく妨害され、新旧の様々な問題が絡み合い、際立っています。これはかつて経験したことのない新しい局面で、双方が新たな中日関係を考えて策定するのに新たな困難と試練を与えています。

 その中で私の使命は両国の関係を維持し、健全的に発展させるように努力することです。それが両国民の根本的利益に合致すると信じているからです。両国間に存在する課題を前に、私は一貫して中日関係には自らの「軸」があるべきだと主張しています。それは中日間で結んだ4つの政治文書が確立した諸原則です。

 昨年11月、習近平主席と岸田首相はサンフランシスコで会談し、中日間の戦略的互恵関係の全面的推進を再確認し、両国関係の方向性を明らかにしました。我々は日本側と協力しながら両首脳の重要な共通認識を導きとし、中日関係が正しい軌道に沿って絶えず改善・発展させ、新時代の要請にふさわしい建設的かつ安定した中日関係を共同で築いていきたいと望んでいるところです。

 ─ 外交や経済など様々な領域で摩擦が起こっています。経済人への期待はありますか。

 吴 様々な問題はしっかりとコントロールし、適切に処理していく。その結果、全体として良い方向に持っていくことが我々の基本的な考えであり、日本側と一緒に努力していきたい。

 一方の経済は中日関係で非常に大きなプラスの役割を果たしてきました。両国の経済協力は緊密です。お互いの利益が重なり合って、下手をすれば一緒に損をする。逆に得をすれば一緒に繁栄する。そういう関係です。両国の経済人は、この関係を継続させていくことが大事です。


日本のバブル崩壊時とは違う

 ─ 世界は不動産問題を含む中国経済に対し、日本のバブル崩壊を経験したことになぞらえて〝第2の日本〟になる可能性があるとも言われています。

 吴 そういった見方があることは知っています。ただ、日本のバブル崩壊と中国の今の状況は違います。当時の日本のレバレッジ引き下げは受動的かつ急速に発生したものですが、私たちは数年前から積極的にレバレッジ引き下げ措置をとり、不動産や地方債、中小金融機関などのリスクを防止し、リスクを発生させないように守りました。

 また、中国経済には6つの点で底力があります。

 1つ目は中国が社会主義市場経済で、市場経済と社会主義両方の優位性を兼備することで中国経済の長期的で安定した発展を守っていることです。2つ目は14億人の人口かつ4億人を超える中所得者層を持つ巨大市場があることです。3つ目は完備された産業システムがあることです。22年の製造業成長は全世界の約30%を占め、そこから生み出す供給面の優位性は中国経済に強いパワーを注いでいます。

 また、4つ目は質の高い労働者と起業家を多く有していることです。高技能人材は6000万人を超え、人材リソースや研究開発者の総数は世界トップです。5つ目はグリーン発展への転換による著しい成果です。中国は過去10年間、年平均3%のエネルギー消耗率で平均6.6%の経済成長を支えました。世界で最も速くエネルギー消耗の低減を実現している国の1つであり、「グリーン経済」はすでに採算の取れない経済ではなく、新たな成長源となっています。

 6つ目はイノベーション能力が絶えず進歩していることです。年間特許取得は92.1万件、ハイテク企業数は約40万社に増加し、ユニコーン企業数は世界第2位です。これらの理由で中国経済には自信を持っています。

 ─ 自動車の輸出で日本を抜いて世界第1位となる中、今後の中国の経済成長の点で注目している点は、どこですか。

 吴 自動車産業全体は日本が強いですよ。中国経済の将来については、「新しい生産力」というキーワードに注目してもらいたいです。つまり従来の経済成長方式から脱却し、新産業、新モデル、新エネルギーを生み出します。中国は新型工業化を力強く推進し、デジタル経済を発展させ、人工知能(AI)の開発を加速し、バイオ製造、商業宇宙開発などを戦略的新興産業にしていきます。また、量子や生命科学など未来産業の新産業も生み出し、スマートデジタル技術とグリーン技術も生かす考えです。

 これらの産業には高い成長性と強いエンパワーメントがあり、1兆元級の新産業の創出につながります。これを未来の中国経済発展のプロセスとし、中日経済協力の新たな成長ポイントにしていきたいと。中日双方が科学技術革新協力を強化し、両国それぞれの経済発展に新しいエネルギーを注ぐようになることを希望しているところです。

 ─ 民間レベルでの交流は欠かせませんね。一方でスパイ行為の取締り強化を目的にしたスパイ防止法で日本人ビジネスマンが拘束された事案が日本側に不安を与えています。

 吴 これは中国の法律に違反する行為を疑われたからです。中国で正常な経済活動をして、機密情報に手を出さない限り問題ありません。中国に行って街を歩いたら逮捕される、旅行して写真を撮ったら逮捕されることはあり得ません。

 中国は一貫して中日間の民間交流と協力を大いに提唱し、支持しており、この立場はいささかの変化もありません。個別な違法行為と正常な交流は全く別の問題であり、混同してはいけません。不法な行為に対して、引き続き法に基づき対処していきます。

 ─ ところで足元では米中対立が続いており、日本や世界の企業の脱・中国の動きが加速しているとも言われていますが。

 吴 市場経済の環境の中で外資企業の出入りは自然なことです。一部の外資企業は中国から離れましたが、それが基本的な流れにはなっていません。2023年の中国の外資利用額は依然として1632億㌦の高水準にあります。中国経済のモデル転換や中国企業の急成長、市場競争の激化などの理由によるか、自身の競争力不足による撤退は市場メカニズムの結果でもあります。

 データによると、昨年の中国での新設日系企業は前年比7.3%増の888社で、日本は中国第3の外資供給国でした。また、中国日本商会が会員企業1700社を対象に行ったアンケート調査によると、88%の日本企業がなお中国を重要な市場とみなし、中国市場の見通しは明るいとしています。日本企業にとって、中国事業の収益率は他国より遥かに高いわけです。

 中国の発展には世界が欠かせず、世界の発展にも中国が必要です。中国は高いレベルの対外開放を持続的に進め、中国式現代化によって世界により大きなチャンスを与えます。先般、李強総理は日本経済界訪中団と会見した際、「中国は最大の誠意、最大の努力によって、日本企業の中国事業のために公平、安全で、安定した環境を提供する」と言いました。我々は常に日本企業が中国に投資し、未来に投資することを歓迎しています。

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