2024-03-11

みずほ信託銀行・梅田圭が語る「金利が付く時代」の信託の役割、「資産を次世代につないでいく」

梅田圭・みずほ信託銀行社長




信託法制定100年を超え次の100年を見据えて

 日本で信託法・信託業法が制定されて、22年で100年。そして、みずほ信託で言えば、25年には創業100年を迎える。まさに「次の100年」を考える時期でもあるのだ。

 梅田氏は「今、信託銀行が担うマーケット、お客様から期待される領域が増えている。過去の100年の中で、元々は『貸付信託』や『金銭信託』に代表されるように個人の金融資産と企業向け融資をつなげてきた歴史がある」と話す。

 そして今は、少子高齢化、人的資本投資、さらには企業の価値向上、金融教育などといった社会課題解決に、信託銀行の力を生かそうとしている。「これらの取り組みは、信託のマーケットステータスを上げることにつながると考えている」

 信託銀行は、その名前が示す通り「信託」であり「銀行」であるという特殊な存在。ただ近年、みずほ信託などメガバンク系の信託銀行は融資業務の多くを商業銀行に寄せる形をとっており、「銀行」という色彩が薄れるのではないか?という見方も強かった。

 だが、このことはむしろ信託銀行の専門性、独自性を際立たせることにつながったという指摘も業界内では強い。「やはり『信託』と『銀行』という2つの機能を持ち合わせることによって、できる仕事もある」と梅田氏は強調。

 例えば、みずほ信託は不動産を強みとしているが、「単なる不動産仲介ではなく、ファイナンスや金融商品を組み合わせていく『創造力』を持っていることが、我々の力の源泉になっている。そこは大事にしていきたい」

 この仕事を担う「人」の役割はさらに重みを増す。「専門性を高めていきたいという思いを持つ人が多い業界であり、会社。ただ、それで自分の領域の仕事はやるけれども、それ以外には意見を言わないといった傾向があるということに課題認識があった」と話す。

 そこで梅田氏は21年7月頃から、「信託業務ステージアッププロジェクト」と名付けた企業風土改革を推進してきた。例えば信託銀行を含めた銀行業界では、打ち合わせ前の「前打ち合わせ」や「根回し」などに忙殺される傾向が強かったが、みずほ信託ではこれをなくそうと梅田氏は旗を振った。

「会議や打ち合わせで、まずは誰もが言葉を発していく。また上司はメンバーが言葉を発しやすい環境をつくる。そこで『ワイガヤ』が起き、専門性を磨くためにお互いが切磋琢磨していく。アイデアを出し合う中で、場合によっては口論が起きても構わないと。こうした『学習する職場』づくりを目指している。ジワジワよくなってきているという実感がある」と梅田氏。

 ただ、上から押し付ける施策だと、社員のモチベーションが上がらないこともあり得る。そこで、この取り組みに関しては、各部署に対して効果や成果の報告を求めていない。経営は土壌づくりや情報提供に徹して、あとは自発的に行動を起こしてくれることを辛抱強く待つ、という姿勢で取り組んでいるという。

 少しずつだが成果と言えるものが出てきている。

 例えば、みずほ信託では来年度から、「ひとり親家庭」の「居住支援ファンド」を立ち上げる方針だが、これは梅田氏がNPO法人の講演を聞いて感銘を受け、社員に「何かできないか?」と話したアイデアを社員が形にしたもの。

 厚生労働省の調査によると、ひとり親世帯の相対的貧困率は48%に上り、母子家庭の生活意識を聞くと85%が「苦しい」と答えているという現実がある。世帯収入水準も、父子世帯が606万円に対し、母子世帯は373万円。

 みずほ信託が立ち上げるファンドでは、社会貢献に関心の高い機関投資家や個人投資家を募集し、首都圏のマンションを取得。そのマンションの一部の住戸の家賃を安く設定して「ひとり親家庭」に貸し出す。投資利回りは主目的にしないものの、投資としても成り立つ仕組みとすることで、社会性と経済性の両立を図る。

「アイデアベースで出てきたものを現場がサービス化した。取り組みがいい方向に向かっている表れだと思う」

 みずほフィナンシャルグループ全体も、21年に発生したシステム障害を受けて企業風土改革に取り組んでいる最中。みずほ信託の取り組みは、それよりも早く着手したものだが、成果の出たものは、グループ全体にも共有するなど連携が進む。

「資産運用」の時代を迎えつつある中、みずほ信託が担う役割は重い。現役世代の資産を増やし、高齢世代の資産を次代につなぐ。そこにますます「知恵」を出すことが求められている。

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