デジタル技術で不動産を小口化
今、日本では政府が「資産運用立国」を掲げ、「新NISA(少額投資非課税制度)」を始め「貯蓄から投資へ」に向けた取り組みが進む。顧客の資産を運用、管理する信託銀行としての役割をどう考えているのか?
「お客様のうち、ご年齢が高い方々は、ご自身の資産形成を終え、後の世代にどう継承していくかに着目されている。ここに我々の役割がある」と梅田氏。
株式や投資信託などを保有している人達が相続を迎える時、例えば投信であれば、多くの場合全て換金されてしまい、現金で相続人の手に渡っているのが現状。せっかく運用の成果が出ている状態で保有しているものが振り出しに戻ってしまうのだ。
そこで、投資信託に「資産承継機能」を付け、相続発生時に遺言等で指定されている相続人が、投信のまま相続できるスキームを開発。これを24年度に商品化すべく準備を進めている。
さらに、これを発展させて、被相続人が認知症を発症し、意思能力が低下した際、事前に指定した人に投信を引き継いだり、投信の売却代金を被相続人の生活や介護費用の引き落とし口座に送金することができるようにする特約のスキームも準備。
また、17年8月に販売を開始した「選べる安心信託」という商品は23年9月に累計4500件を超えるヒット商品となっている。この商品は、相続・贈与などの信託機能に、「見守り」や「生活サポート」などの非金融サービスを付加したもの。特に22年度だけで1232件という販売実績を記録した。
この要因について梅田氏は「コロナ禍で、多くの方がご自身のライフプランを考える時間ができ、金融商品への興味も出てきたのではないか」と分析。
資産運用の時代を迎える中、次世代にいかに資産をつないでくかが重要な課題だということ。
投資対象の多様化も重要。株式や投信に加え、個人も実物資産としての不動産に着目するケースが増えている。
だが、個別の不動産物件は1件で数億円、数十億円という単位になるため、個人には手が届きにくい。そこでみずほ信託はこれまで、STO(Security Token Offering、有価証券の価値をデジタル化したもの)を活用して小口化、投資家につなげる取り組みを進めてきた。
「個人のお金がオルタナティブ投資にも回りやすくなる。今後、加速度的に発展していくと思う」(梅田氏)
22年12月に第1号案件として越後湯沢の温泉旅館、第2号案件は東京の大規模マンション、月島リバーシティ21を小口化。リバーシティは、足元で国内最大の不動産STO(134億円)となっている。
今後は不動産だけでなく、STOを活用してインフラやプライベートエクイティといったオルタナティブ資産に個人の資産をつなげる取り組みを検討中。
企業にとっても不動産をどう活用していくかは課題。資本効率改善に向けて、不動産を売却して資産を軽くする企業も増えている。そこでみずほ信託は、各企業が保有、使用している不動産が、コストリターンに合っているかという分析をして、その結果で保有、売却の判断を促すという仕事を手掛けている。