2023-12-15

技研製作所の〝杭打ち技術〟無振動・無騒音で都市部の工事現場で脚光浴びる

遠隔操作によって自動圧入の実験を実施している

どんな建物やインフラが倒壊しないためにも必ず〝杭〟が必要だ。その杭打ちの技術の磨き上げに半世紀以上の月日を費やしているのが高知県に本社を置く東証プライム上場の建設機械メーカー・技研製作所。杭打ちと言えばハンマーで叩いたりするイメージが強いが、同社の技術は無振動・無騒音。その技術は、国内はもとより、海外でも需要が出てきている。高知県から世界をにらむ同社の〝杭打ちビジネス〟とは?

木内翔大・SHIFT AI代表取締役の 「人生の転機」【「シンギュラリティ」との出会い】

首都高の橋梁工事でも採用

「目には見えない地中が我々の勝負する場。橋脚や護岸のインフラリメイク、高速道路のリニューアル工事などが増える中、生活を止めずに工事ができる当社の技術にニーズが高まっている」─。こう語るのは技研製作所会長(2023年11月28日まで社長)の森部慎之助氏。

 どんな建物やインフラにも必ず倒壊しないよう地中に杭が打ち込まれる。その杭を地中に打ち込むのが同社だ。杭は建設工事で欠かせず、用途や使用環境に合わせて様々な形状や材質が開発されており、構造物の基礎や土を留める擁壁、水をせき止める止水壁など、我々の生活のあらゆる場面で使用される。

 杭を地中に打ち込む場合はハンマーで叩いたり、ドリルを回転させて掘削・排土するといった工法が一般的だが、どちらの場合も騒音や振動が必ず発生してしまう。また、地盤を削孔して既製杭を設置する埋め込み方式では、余分な排土や泥水が発生してしまう。杭打ちは一昔前まで〝公害〟の代名詞だったのだ。

 しかし、技研製作所の技術は無振動・無騒音で地中に埋め込む独自工法の「圧入工法」。1975年に世界で初めて実用化した。圧入とは工場で生産された鋼杭などを地盤中の所定の深度まで貫入し、既に地中に押し込まれた杭を数本掴み、その引抜抵抗力を反力として次の杭を油圧による静荷重で地中に押し込んでいく工法になる。

 いわば〝地球に支えてもらう〟状態だ。油圧を使って杭を押し込んでいくため、周辺に及ぼす騒音や振動が小さくなり、地盤を乱すことなく、汚泥も発生しない。同社はこの杭圧入引抜機「サイレントパイラー」を主力に据えて油圧式杭圧入機の国内外のシェアで9割超を占める。国内の基礎杭業界の市場規模は約2500億円で、サイレントパイラーでは同社がトップだ。

 しかも、サイレントパイラーはスタンダードなモデルで幅1メートル・長さ2メートル・高さ2.5メートル程度とコンパクト。重量も軽く、施工した杭の上を自走できるため、作業用の足場を仮設する必要もない。狭いスペースでも静かに精度高く杭打ちができる。

 同社の技術が注目される1つの事例が老朽化した首都高速道路の「高速大師橋更新事業」。2023年6月に橋桁一括架け替え工事が完成したのだが、約50メートルもの長尺杭を地中に埋め込む基礎工を技研製作所が担当した。それ以前の「羽田線(東品川・鮫洲)更新事業」も同社が橋梁整備の根幹をなす基礎工を担当。「杭を地中に埋め込む技術を磨き続けてきた」と森部氏は語る。

 そもそも同社は1967年に高知県で「公害対処企業」として創業。当時の工事現場では杭打ち機の騒音や振動が近隣に多大な迷惑をかけており、創業者がこれを何とかしたいと考えて開発したのがサイレントパイラーだ。その後も仮設レスの施工や堤体の中心を貫く背骨が地中に深く根を張って地盤と一体化した「インプラント堤防」、さらには機械式地下駐車場や駐輪場なども手掛けてきた。

 そんな同社が、建設業界が直面する人手不足の解決にも乗り出そうとしている。その1つが、機械が自動で杭の傾きや変位を判断する自動運転システムと遠隔操作システムを組み合わせたソリューションの開発だ。この技術によってオペレーター業務の軽減や省人化が進み、3割程度の生産性向上が見込める。

 既に自動化していた圧入作業に加えて、施工前の水平・傾斜の修正や施工後の杭の天端合わせまで自動化を実現する。また、圧入現場を3Dモデル化して遠隔施工やシミュレーションやリモート施工ができる技術も生み出した。要は工事現場にいなくても、パソコン上で杭打ちができるようになるのだ。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事