2023-11-10

三菱総合研究所理事長・小宮山宏「生成AIは私たちの生活を一変させる。しかし社会の主役は“人”」

小宮山宏・三菱総合研究所理事長

「人類が目の前の課題を解決し、美しい地球を再建し、社会を繁栄させることができるかどうか。今こそ行動しなければならない」─。小宮山氏は問題提起する。20世紀初頭からの発展の原動力は化石燃料だった。しかしその結果、大気中の二酸化炭素の約3分の1は人間の活用によるものになった。環境という地球規模の課題解決のカギを握るのは太陽エネルギーと説く。同時に技術革新では「チャットGPT」に代表される生成AIが我々の生活に溶け込み始めている。人類はどう共存を図るべきか。

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希望は「飽和」にある

 脱炭素が産業界で声高に叫ばれていますが、目の前の技術革新を見ていると、地下資源や化石燃料に依存しなくなる時代に必ず突入すると感じます。

 私はNPO法人「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」(通称STS=Science and Technology in Society forum)の理事長を務めており、今年10月1日のフォーラムでもスピーチしたのですが、いわゆる「完全循環社会」は必ず実現できるということです。

 まず、地球に降り注ぐ太陽エネルギーは現在人間が使用しているエネルギーの数千倍で、化石資源に依存する必要がないということになります。

 次に希望は「飽和」にあると考えています。先進国では自動車や建物が飽和に近づいており、新興国も追随しています。飽和が達成されれば、人工物はリサイクルで賄うことができます。これは仮説ではありません。

 実際、グローバルな鉄のサプライチェーン(供給網)は飽和と循環に向かっています。21世紀のある時点で、鉄鉱石や他の地下資源を採掘する必要はなくなり、循環型社会に移行することができるのです。循環させるエネルギーは太陽によって賄うことができ、私たちは太陽エネルギーを基盤とした文明に移行することができます。

 このように、持続可能な循環型社会を作ることは理論的に可能なのです。実際に、そのための科学技術が急速に開発されています。希望はあるのです。例えば、都市鉱山が1つの事例です。ある鉄鋼メーカーはビルの廃材やスクラップから自動車を製造しようとしています。

 従来までの化石資源を使って金属を作り、それを循環させていくのではなく、廃材や太陽エネルギーを活用すれば地下資源を掘らずに全てを賄うことができるようになるということです。

 つまりは、地域社会・経済を基礎に、製造業、資源再生業、サービス業、生活者、大学・研究機関などが一体となり、モノ・サービス、カネ、情報等を再生・循環させていく社会の仕組みである「サーキュラー・ソサエティ」に人類はシフトしつつあり、そのリサーキュレーション(再循環)の原動力となるのが太陽エネルギーなのです。


生成AIの便利な面と問題点

 そしてSTSでもう1つ大きな話題となったのが、チャットGPTのような生成AIの出現です。この技術は私たちの生活、社会構造、経済パラダイムを再定義する幅広い変革の潜在力を持っています。

 私自身、チャットGPTのヘビーユーザーです。使ってみて便利な面と問題点も分かりました。チャットGPTは論理的な文章を書かせたり、そういった文章をインプレッシブ(印象的)にすることは非常に得意です。私など及びもつきません。ラージスケール言語モデルの特質ということでしょう。

 一方で数字には注意が必要です。かなりでたらめな数字が使われたりします。いま「リチウム資源の状況はどうなっていますか?」と尋ねると、チャットGPTは「リチウム資源がバッテリーなどに使われており」という説明から始まり、「資源量は毎年変わりますので、しかるべきところをご覧ください」といった返答しかきません。

 ただし、生成AIは対話ができます。この返答に対し、私が「今の資源量は何千万トンと言われていますが、40kw/hの電気自動車に積むと、何台分になりますか?」と聞き返しました。すると、「1kw/hで約0.3キログラムのリチウムを使うため、これをベースにすると、何十億台分になります」と回答するのです。ただし、「これは仮定に基づく計算ですので詳しくは専門書などをお読み下さい」と返ってくる。これは間違いなく便利です。

 したがって、チャットGPTを使うことによって、仕事がものすごく合理化されることは間違いありません。秘書や助手もより高度な仕事ができるようになるでしょう。人間が不要になるというよりも、うまく使いこなすことができれば、本当に人間がやらなければならないところだけに集中することができるようになるわけです。主役はやはり〝人〟なのです。

 先のSTSのフォーラムには岸田文雄首相も出席し、政府も生成AIの法制度の規制の在り方などを議論し、「信頼できるAIの実現に向け、日本が主導して国際ルールづくりを進めている」と強調されていました。

 現在の課題の多くは、ステークホルダー間の相互理解の複雑さのために解決困難になっています。生成AIには、個人やグループ内外の相互理解を促進し、問題解決に貢献する潜在力があります。ただ、過度に依存することは人間の認知能力が低下する可能性がありますから、やはりバランスが重要です。

 科学技術は人類に災厄をもたらしうる一方、人類に明るい未来を創造する力も持っています。私たちは後者の道を目指し、その追求に全力を注いでいかなければならないのです。

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