2023-10-31

中興化成工業・庄野直之「創業から60年、加工が難しいフッ素樹脂で培った技術を、他の素材でも生かしていきたい」

庄野直之・中興化成工業会長兼社長

「ボトムアップで、アイデアを出せる環境づくりを意識してきた」と話す庄野氏。住友商事時代、営業の本質を「受発注係」ではなく「課題を解決すること」だと痛感。その経験から、中興化成工業トップとして、フッ素樹脂などで、他社にはない商品・サービスの提供を心がける。社員には「課題解決型企業」であろうと啓発する日々。庄野氏が考える経営の姿とは─。


いい素材を調理する「シェフ」の役割

 ─ 中興化成工業は今年、創業60周年を迎えましたね。創業家による経営から、庄野さんが社長となるまで、様々な歴史があったかと思いますが。

 庄野 そうですね。当社の創業者は木曽重義といいます。「筑豊の四天王」とも呼ばれ、石炭で財をなした人です。

 とても先見の明があった人で、石炭産業が斜陽になると将来を見通して経営の多角化をはかり、いよいよ閉山となったときには、そのお蔭で雇用を守ることができました。創業家は従業員の雇用を大切にし2001年に最後の関連会社を中興化成工業本体に合併した時も整理解雇は行いませんでした。

 この少し前、1999年に私は中興化成工業に入社しました。石炭事業時代から会社が保有していた不動産があり、このストックに頼る面がどうしてもありましたから、それを06年に分離して、創業家である木曽家が株式を持つ別法人にしました。現在は中興化成工業3代目社長で現相談役の木曽節文が、この不動産会社の社長です。

 ─ 本業は何かを見つめ直す時期でもあったと。

 庄野 ええ。やはり我々は「ストック」より「フロー」だろうと。「我々の会社は福岡の中心に土地を持っているから」というような発想ではいけないと考えて、分離を提案したんです。

 私は07年に社長に就任しましたが、直後に起きた08年のリーマンショックは厳しい経験でしたし、19年にエアバッグ事業を譲渡した時には、売上高、営業利益ともに大きく減少し、これも難しい選択でした。

 ─ この3年余のコロナ禍の影響はありましたか。

 庄野 コロナは、当社の事業にはあまり影響しませんでした。むしろ「巣ごもり需要」でパソコンが売れ、半導体関連事業が伸びました。

 半導体はやはり周期、サイクルがありますからね。当社のセグメントには食品、建築、電子部品、自動車、医療などがありますが、これらはあまり振れません。半導体も我々は装置の部材を手掛けていますから、装置の設備投資が続く限りは、大きく落ちることはありません。

 ─ その意味で、事業は安定していると言っていいですね。

 庄野 ええ。半導体で言えば、日本でもラピダスやTSMCなどのデバイスメーカーの投資に世の中の関心が強いですが、日本の強みは半導体装置メーカーなんです。

 そして、その装置を支えているのは部材です。素材産業の部材が強く、装置メーカーの強さを支えていると言っていいと思います。

 まず、化学メーカーが優秀な樹脂を製造します。農業に例えると、いい農作物をつくるわけです。こうして作られたいい素材を、我々のような加工メーカー、調理役がきちんとしたキッチンで、素材の良さを生かした調理をするのです。

 いわば、シェフが磨きに磨いた包丁を使って、全く汚れもつけないように調理をするわけですが、誰にでもできるかというと決してそうではありません。これは日本人、日本の製造業の強さだと思うんです。

 ─ 日本の文化的強さと言ってもいいかもしれませんね。

 庄野 そう思います。海外出張に行って、日本に帰ってくると成田空港のガラスや床の綺麗さを実感します。また、日本の道路の多くは裸足で歩くこともできるぐらいゴミなどが落ちていませんが、海外ではそういう道路はありません。これが日本の清潔さ、気がつく、気を配るといった「気」の部分だと思います。

 これは当社でも意識している部分です。例えば、クリーンルームで仕事をする人間を選ぶ際、優秀か、優秀でないかではなく、そういう性分の人間を選ぶようにしているんです。

 ─ どうやって見極めているんですか。

 庄野 選抜を担当している社員に、駐車場を見に行かせるんです。車を綺麗にしている社員をチェックして、その人間をクリーンルームの仕事に回していこうと。車を綺麗にしている人間は、そういう性分なんです。

 他にも、工場で宴会をした際に、乾杯した後、コップの下の雫を拭っている人間を全てメモしたこともありました。仕事はやはり適材適所だと思うんです。そういう性分でない人間を当てても、本人が苦労しますし、会社にとってもプラスにはなりません。適性を見抜いておけばお互いにプラスです。

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