上司は部下のことを「よく見る」ことが大事
─ 昔は「愛社精神」などと言われましたが、近年は「エンゲージメント」(働きがい)などと言われます。社員と会社との関係を今、どう考えますか。
庄野 従業員との関係は基本的には経営者の「片思い」だと思うんです。「従業員は喜んでいるだろうか」、「1人よがりになっていないだろうか」と自問自答する日々です。給与を上げたり、制度をつくったりした時には、果たして満足度は上がっただろうかと思うわけです。ですから、従業員が他社に移ったりすると、片思いの恋に破れたくらい切ない(笑)。
細かい例で言うと、当社では従業員本人ではなく、そのご家族など、大切に思っている人の誕生日に花を贈っています。「あなたが、あの人を支えてくれているおかげで、当社は運営できています」という思いを込めています。
─ 家族を含め、大事な人の支えがあってこその企業経営だということですね。
庄野 そうです。私も長い期間、サラリーマン生活を送ってきましたが(編集部注:庄野氏は住友商事出身)、昔 都々逸で聞いた「嫌なお方の親切よりも、好きなお方の無理がいい」という言葉が心に残っています。嫌な上司から「早く帰っていいよ」と言われるより、好きな上司から「悪いけど、あと2時間やってくれる?」と言われる方が、人間は幸せではないかと思っています。
例えばラグビーなどは激しいスポーツですが、嫌な人間から「やれ」と言われて、骨を折るようなプレーはできません。体を張ることができるのは、やはり好きだからです。ですから会社も、できるだけ好きになってもらう努力を、みんながすることが大事だと思うんです。
ですから管理職などには、できる限り部下を見ていてあげなさいということを言っています。私が商社で中国の担当をしている時、アメリカから中国市場の知識の少ない上司が赴任してきたことがありました。
その上司は当然、現地の事情はわからないわけですが、その人は我々が夜、接待に出た後、最後の1人が帰ってくるまで待っていてくれたのです。そうして、我々の愚痴を聞いて「そんなの気にするなよ」と声をかけてくれる人でした。
─ 部下のことを見てくれる上司だったわけですね。
庄野 そうです。自分達の仕事を知らない上司にボーナスの査定をされたくないですよね。その上司は、我々がどんな顔をして帰ってくるか、見てくれていたんです。市場のことはわからなくても、我々の話を聞き、誰が何を判断しているのかを見る眼力がありました。
こうした経験から、管理職以上の、将来経営を担う人間に必要な資質として、デザイン力、胆力、眼力、対内的対人能力、対外的対人能力の5つが大事だと考えています。
そしてポジティブさも大切です。当社では例えば「この角度がわからないので見積もれません」という言い方ではなく「この角度がわかれば見積もれます」と言いなさいと言っています。同じことを言っているわけですが、ポジティブな言い方に変えようと。