2023-10-31

大和ハウス工業社長・芳井敬一「世の中の困り事に対して『やってみよう』という力、DNAを大事にしていきたい」

芳井敬一・大和ハウス工業社長




日本、アメリカの住宅事業をどう見るか?

 ─ 住宅事業についてお聞きします。国内と海外で色合いが違うと思いますが、国内の状況は?

 芳井 国内は厳しいですね。特に今、国土交通省から「こどもエコすまい事業」の補助金が出ていて、この補助が若い人達に人気です。

 7月28日に209億円が増額され、1709億円となりましたが、9月14日時点で申請額が95%に達しています。国はあるものを全て集めるなど努力してくれました。ただ、それも含めて消化されている。

 昨年の「こどもみらい住宅支援事業」は3月から申請が開始されましたが、11月28日で打ち切りになってしまいました。申請できなかったお客様からは「不平等じゃないか」という声も出ていましたが、その後「こどもエコすまい事業」が始まったという形です。政府は「切れ目のない支援」ということで、補正予算で前倒ししてくれたのです。

 ただ、昨年が11月末で打ち切りのところ、今年は9月中にも全て消化される可能性がありますから、今年の残りの期間、お客様にどう訴求するかを考えると住宅業界としては厳しい。

 ─ 国の支援にも限界があるということですね。

 芳井 ええ。また税制の話で言えば、住宅ローン減税の限度額が変わります。「長期優良住宅」の借入限度額が5000万円だったものが4500万円になるのです。

 今、皆さんが借りておられる住宅ローンの平均値は、各社によって違いますが、住宅メーカーで見ると5000万円近いんです。そうすると、4500万円を超えた部分はローン減税の対象にならなくなってくる。こういう事例が増えると、住宅販売の足が止まるのではないかという不安はあります。

 ─ 2023年7月の金融政策決定会合で日本銀行はYCC(長短金利操作)の柔軟化を決定しました。金利動向は住宅の動きを左右しますが、今後の見通しは?

 芳井 短期金利は今後、上がってくると見ています。ただ、変動金利はそれほど変えてこないのではないかと。住宅ローンを借りておられる方々の多くが変動金利ですから、ここは触らないのではないでしょうか。長期金利については、長い目で見ると上がっていくでしょうね。

 ─ 時間軸はあるにせよ、金利はつく方向に向かうと。

 芳井 それがだんだんと常態化してくる。一方で今年、各社が努力して賃上げをしました。この効果は当然、今年は出てきません。来年、再来年くらいに徐々に物価が落ち着いてくると可処分所得が見えてきます。

 今はエネルギー情勢の先行きが不透明で、多くの方がガソリン価格の動向に神経を尖らせていますが、わからないことだらけです。

 そうした状況に備えて、皆さん「予備費」をつくり、それが「箪笥預金」になり、なかなか出てこないわけです。

 ─ その意味で来年の賃上げが試練になりますね。

 芳井 ええ。我々で言うと昨年が3.5%、今年は4%上げています。来年どうするかは当然業績次第ということにはなりますが、期待には応えたいと思っています。

 ─ 一方でアメリカの住宅事情はどうですか。

 芳井 アメリカは、昨年は厳しい状況でしたが、今年に入って様変わりして売れ行き好調ですね。やはりアメリカ経済は強い。それと仕組み上、住宅が100売買されるとしたら新築は2割程度で、残りは既存住宅が動くんです。

 今、新築がよくて既存市場が動いていないのですが、それには金利が絡んでいます。多くのアメリカ国民は元々金利3~4%で新築住宅を買ったのですが、今買い換えてしまうと6~7%になってしまいますから、既存住宅市場にモノが出てこないんです。ですから新築に走っているのですが、今の新築戸数は異例です。この戸数がどう動いていくかは注視していきたいと思います。

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